巻頭言:アンケートから振り返る学会大会「スピリチュアリティと持続可能性」

巻頭言
アンケートから振り返る学会大会「スピリチュアリティと持続可能性」
辰巳 裕介
(本学会常任理事)

 ちょうど2年前のいまごろ、「次の大会はどうしようか」という話題が会議にあがりました。当時は空前の「スピリチュアル・ブーム」で、テレビで毎週のように「スピリチュアル」という言葉を聞くことができたときです。会議で「スピリチュアルを問う! という大会にしよう」と話題になったものの、その話題はすぐに消えました。その理由は2つあります。1つは当時のようなスピリチュアル・ブームがそれほど続くことはないだろうこと、2つ目は、次の大会がトランスパーソナル学会のその次の2年を見渡すテーマである必要があること。原点に立ち返り、会議を重ね、そして今回の「持続可能性」という言葉が浮上してきたのでした。今思うと、本当にこのテーマでよかったと思っています。

 ただ、スピリチュアリティと持続可能性という言葉は、それだけでとても難しい概念を含んでいたと思います。この難しさの中であっても、理解していただきたかったことは、両者を「と」という言葉で結んだ理由です。それは自己完結なトランスパーソナル的態度ではなく、それを社会へとつながっていく方向を模索したいということでした。前回のニュースレターに書かせていただいたとおり、私たちがスピリチュアルな態度(あるいは意識)であってもお腹は満たされないように、いくら意識改革、修行などを行なっても私のような普通の人間であれば、坐禅を組んでも雑念は多いし、欲は消えず、美味しい物をたくさん食べたいと思ってしまいます。一方でお腹を満たすためには「社会」という場にいる必要があります。スピリチュアルな態度「だけ」で社会生活を営むには少々無理があるように思います。社会にいて、その中における様々な人間関係が保たれてこそ、私のお腹は満たされるからです。

 しかしながら、その社会において、私だけの欲求を満たす態度は、いつの日か私自身ではなく、社会全体に大きなダメージを与えかねません。石油の枯渇、異常気象をはじめ、地球規模の問題には枚挙に暇がありません。そのような未曾有の大きな問題に、私たちは今まさに直面しています。自分の欲だけではない視点を持つことはとても難しいと思われます。それは気づかないほどのペースでゆっくりと進んでおり、気がついたとしても「いつの日か新しい科学技術で」なんて人任せで、思考停止をすることも往々にしてあるからです。

 そのような状況において、「持続可能性」という意識を持ったり、スピリチュアルな態度を持ちながら社会という場に関わっていくには、どうすればよいのか。それをみなさんと考えたかったのです。だからこそ、「対話」を軸にプログラムを展開させていきました。

 大会の具体的な内容としては、スピリチュアルの側面からは(1)富士見 ユキオさんのプロセスワーク、(2)青柳 五月さんのイメージング・ヨガ・ワークショップ、(3)鈴木 惣士郎さんの講演。それらと「持続可能性」との橋渡しを(4)中野 民夫さん・鈴木規夫さんのワールドカフェ、スピリチュアルと持続可能性の議論を100年前と現代を照らし合わせて議論した(5)鎌田 東二さん・鏡 リュウジさん・田口 ランディさんの鼎談。

 それぞれのプログラムにおいて、いろんなことを参加してくださった方は思っていただけたようで、私としてもありがたいと感じています。そこで、当日書いていただいたアンケートの結果から、今回の大会についての感想をご紹介いたします。アンケート総数は38通でした。

まず大会全体の印象として、「開かれた学会」である雰囲気を評価してくださった方が多くいらっしゃいました。

  • 初めてトランスパーソナル学会に参加しましたが、初めてであっても非常に入りやすい雰囲気が漂っていました。
  • 権威的な色あいがなく、すめての参加者が自然体と関わることができたように思えました。一生忘れられない体験でした。
  • 全体として学会といっても学者だけでなく一般に開かれているので楽しむことができました。
  • どのプログラムも参加型でしたし、スケールが大きくて、初めて参加させていただいたので印象的でした。
    学会という固くるしいイメージがなくてよかった。ホッとした。
  • 誰でも入れる開かれた学会であることに最初はどんな感じなのか不安でした 参加した感想としては、会長のキャラがそのまま会員につながっているのだと、参加して良かったと思っています。

学会運営でとても意識している部分でもあり、評価をいただき嬉しく思います。
各プログラムの感想で特に多かったのは1日目のワールドカフェでした。中野 民夫さん+鈴木 規夫さんの対談を軸に、参加してくださっている方々で対話をし、テーマを深めていくワークショップ形式のものでした。

  • 中野さんと鈴木さんの対談がとても刺激的でした。
    わかりやすく理解させてくれたお二人の話はすっと心におちつきました。
  • 少々難解なところもあったが濃い内容でした。
  • 一人一人のユニークさが新鮮で楽しかった♪
  • 他の参加者の方を日常から地球のことまでいろいろお話を聞くことができたのでよかったです。
  • 改めて持続可能性について考えさせられた。人・国・心・科学等さまざまなポイントに目を向ける様になった。

また、他のプログラムにおける感想もご紹介します。

  • 富士見 ユキオさんのワークショップ。初めて体験したのですが、体に表れることには意味があることを知りました。
  • 富士見先生の公開セッション。プロセスワークの実践されていく過程は本で読むより直感体感するほうがずっとわかりやすいと感じたから
  • 12日の午前の分科会で前世療法が体験できてとても良かったです。レベルが高くてとても良かった。
  • 分科会発表で思いがけず前世療法を体験させて頂き、嬉しかったです。
  • 青柳さんのヨガ。楽しく日常にとりいれやすかった。
    2日目の鼎談もすばらしかった。レベル高く、特に自分には向いていた。
  • 田口 ランディさんの歯に衣着せぬハキハキした楽しい語りにはひきこまれました。鏡さんの知性にも感動しました。
  • 最後講演を担当された鈴木 惣士郎さんの「今まで自分と自分以外とを分けて考えたことがなかった」というお話を聞き、時代の移り変わりを感じました。
  • なかなか伺えない内容ばかりで、大変興味深く思いました。もっともっと多くの方にきいてもらいたいという思いを強く思いました。

 大会が終了したあと、中野 民夫さんから伺った話が、とても印象的でした。「いろんな企業で「持続可能性」というテーマで研修やワークショップをするが、そこでスピリチュアリティに類する話はできない。持続可能性とスピリチュアリティを重ねて論じられた場はとても貴重な機会でした。」今回の大会の目的が、この言葉に尽きていると、本当に感じています。

 最初に書いたとおり、この2年間は今回の大会で得たことを基本に、「次の大会」への橋渡しが必要だと感じています。つまり、これで終わりではなく、これまでのトランスパーソナル学会の良いところを残しながら、大会で得たものをそこに重ねていくことが必要になると思っています。いろいろな企画がすでに進み始めてますが、私の担当できる部分としては、どこかのプログラムの講演部分をインターネット上に動画としてアップロードできればなと思っています。みなさんと再び、振り返るきっかけとしての「対話」を企画できたらよいなと思っています。(できれば気長に)ご期待ください。