訳書紹介:『実践 インテグラル・ライフ:自己成長の設計図』

訳書紹介:『実践 インテグラル・ライフ:自己成長の設計図』
ケン・ウィルバー(著)鈴木 規夫(訳)
鈴木 規夫(本学会常任理事)

4393360532

今年にはいり、ケン・ウィルバー(Ken Wilber)の関連書を翻訳・執筆しましたので、御紹介します。

これまで、日本では、ケン・ウィルバーは、思想家・理論家として紹介され、また、そのように認識されてきました。しかし、実際には、ウィルバーは、その思想活動をはじめた当初から、常に思索と修行の両方にとりくんできました。そこには、「理論」(地図)と「実践」(領域)が相反するものではなく、「生きる」という営みにおいて相補的な役割を果たす両輪であることに対する明確な認識が息づいていたのです。

ただし、理論と実践を統合する統合的な実践活動が具体的にどのようなものなのかということについては、これまで詳細に説明をされることはありませんでした。しかし、近年、ウィルバーの提唱するインテグラル理論が多様な実務領域で応用されるようになるなかで、統合的な実践法に関する詳細な解説が求められるようになりました。今回、邦訳された『実践 インテグラル・ライフ』は、そうした広範な要求に応えるために、ウィルバーの統括のもと、4人の執筆者によりまとめられた作品です。

本書で提唱される統合的な実践法「インテグラル・ライフ・プラクティス」(ILP)の枠組みは、非常にシンプルなものです。

人間は多様な領域や次元を内包する存在ですが、そのなかでも、とりわけ重要なものとして、「体」(body)「心」(mind/heart)「魂」(spirit)「影」(shadow)という4つの主要領域が存在します。これらは相互に密接に関連していますが、また、それぞれに独自の技法や方法をとおして探究されるべき領域であるともいえます。また、あるひとつの領域に習熟することは、必ずしも全ての領域において、同等の治癒や成熟が実現されていることを意味するものではありません。そのために、私たちが自己を真に包括的に癒し、育んでいくためには、これら複数の領域に同時並行的にはたらきかけることが必要となるのです。

本書では、そうした統合的な実践法を設計し、そして、それを継続的に実践していくなかで、必要に応じて修正・発展させていくための具体的な方法が網羅的に解説されています。

1980年以降、人間性開発運動(Human Potential Movement)の流れのなかで、これまでにも無数の自己探求と自己成長に関する実践書が発表されてきました。実際、私たちの周囲には、無数のそうした情報や研修が存在しており、正直なところ、そのあまりの情報量に圧倒されるような感覚をいだいています。

こうした状況において必要とされることは、そこに新しいもうひとつの技法や研修をくわえることでは必ずしもありません。むしろ、現代人が真に必要としているのは、刻々と変化していく自らの状態や状況を考慮して、それらの資源をどう効果的にくみあわせ、利用していくことができるのかということに関する大局的な枠組みです。

移動や転勤、出逢いや別離、病気や喪失をはじめ、私たちの状態は刻々と変化しています。そうしたなかで、私たちは必ずあるひとつの技法や方法では解決できない課題や問題を経験することになります。そこで求められるのは、ある特定の手法に固執することではなく、そのときに自己が経験している欲求を見極めて、多様な手法を効果的に統合して、自己の治癒と成長を実現していくことです。つまり、今日の極度に流動化した状況の中で必要とされるのは、賢明な洞察力と判断力にもとづいて、自己の治癒と成長を継続的に推進していくことのできる大局的な視野と責任能力なのです。

本書で紹介されるILPとは、そうした21世紀の実践法というに相応しいものだといえます。今後、自己の実践生活をさらなる成熟の次元に高めていこうとしている方々にぜひ推薦したいと思います。