自著紹介「インテグラル理論入門 I」

自著紹介:
青木 聡・甲田 烈・久保 隆司・鈴木 規夫(著)
インテグラル理論入門 I:ウィルバーの意識論
春秋社(2010年4月)
鈴木 規夫(本学会副会長)

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21世紀において、私たちが直面する問題とは、情報の不足ではなく、情報の過剰であるといわれます。実際、私たちは、普段の生活のなかで、その隅々にまではりめぐらされた情報網を通じて届けられる膨大な情報の奔流の中に置かれており、それを効率的に処理すること常に追われています。

こうした状況のなかで必要とされるのは、それらの情報の信頼性を見極めることのできる透徹した鑑識眼を鍛錬することであり、また、それぞれの情報を相互に関連付けることのできる統合力を確立することです。即ち、今、私たちが必要としているのは、ひとつひとつの情報を大局的な文脈の中に位置づけることをとおして、それぞれが現実という全体性のなかで、どのような部分を担うのかを瞬時に洞察することを可能とする俯瞰的な枠組(meta-system・meta-theory)なのです。

ウィルバーのインテグラル理論とは、ある意味では、こうした21世紀の課題に応えるために生みだされたものだといえます。そして、インテグラル理論の要諦を掴むには、こうした時代的な課題を把握することが必要となるといえるのです。

周知のように、1995年に出版された『進化の構造』(Sex, Ecology, Spirituality: The Spirit of Evolution)以降、ウィルバーの思想は、その視野を大きくひろげ、その応用領域の数を増やしていきました。それとともに、インテグラル理論は、いわゆる「内面領域」の理論としてだけではなく、世界の集合的な領域を視野に容れた真に総合的な理論として展開していくことになりました。また、そこでは、意識の治癒や探求というとりくみにおいてだけでなく、組織活動や政治活動等、私たちの日常的な活動をより統合的なものに変容していくための具体的な思考と行動の指針が提示されるようになります。これは、今日において真にものごとを包括的にとらえるためには、「内面」や「外面」、「個人」や「集合」といった枠組を超克して、それらを相互に関連させることが必須となることを端的に反映するものといえるでしょう。

今回、JTAの4人の常任理事により執筆された『インテグラル理論入門I』は、インテグラル理論のこうした現代的な意義を紹介するために執筆されました。それぞれの執筆者がこれまでに関わってきた専門領域での体験にもとづいて、21世紀における実践思想としてのインテグラル理論を平易に解説してあります。尚、続編は、春秋社より、2010年の秋頃に出版予定ですので、どうぞご期待ください。