CD紹介:ウォン・ウィンツァン「光の華」に寄せて

CD紹介

ウォン・ウィンツァン「光の華」に寄せて

笠置 浩史
(本学会常任理事)

B002YI2UPE

 私はウォンさんのファンである。演奏家として、作曲家として、そして人間として、敬愛してやまない。今回は、一介のファンとしての立場から、ウォンさんの新譜を紹介したい。

 「瞑想のピアニスト」とも呼ばれるウォン・ウィンツァンさんは、自身のレーベル「サトワミュージック」より20以上のアルバムをリリースしてきた。インプロヴィゼーション(即興演奏)、サウンドトラックや、童謡・唱歌、クラシック、ジャズなど幅広い作品群があるが、11月22日発売の新作アルバムは、2003年の「海より遠く」に続く待望のメロディアス作品となる。

 ウォンさん撮影による花の写真があしらわれた美しい装丁の2枚組。同じ曲目で、ピアノソロヴァージョンとピアノ&ストリングスヴァージョンが収録されるという、珍しい構成になっている。制作に際して、さまざまなインスピレーションとシンクロニシティが重なってこのような形になったという。ウェブサイトで制作秘話を読むことができる。ぜひとも参看されたい。奇跡的ともいえる出会いの結晶であることがわかる。

さて、「琴線に触れる」という言葉があるが、いまCDを聴きながら私の胸の奥のほうで揺れているそれがそうなのだろう。ウォンさんの音楽は胸をやさしく締めつける。とてもやさしく、あたたかい。そして哀しい。チャイコフスキーの緩徐楽章のような。自分の中に父の面影を見つけたときのような。寒い冬の朝、公園の木々から立ち昇る蒸気が木洩れ日に光っているような。哀しい。しかし、よろこびがある。弱音の響きとともに、深奥からわきあがってくるような、生のよろこび。言葉は超えている。ちくりとした切なさとともにふるえている見えない記憶、それをたましいと呼ぶのだろうか。

ついに見つけたぞ
光の華…
神秘に繋がる、光の鍵…
それは
光の国の母からの祝福…
きらめき
ゆらめく
花びら散らし…
光の華
泣きながら胸に抱いて
生きることを決意した
あの日…
(CDジャケットより)

 昨年の学会大会でのゲスト出演をきっかけに本学会理事に就任されたウォンさん。春のスペシャルイベントにおける飛び入り演奏も記憶に新しい。

しかし、実はもう少し前から本学会とはつながりがあった。News Letter Vol.12 No.2 への特別寄稿である。「変性意識と演奏行為」と題されたその論考は、アマチュア音楽家として楽器演奏に携わっている私に深い共感と感銘を与えるものだった。

 現在、私が音楽監督として指揮・指導にあたっている吹奏楽団では、トレーニングの一環として瞑想的なワークを実践している。まだまだ未熟なバンドだが、成長・発達の暁には、いつか「瞑想のピアニスト」との素敵な共演を実現したいなどと、勝手な夢想に胸を膨らませている。

ウォン・ウィンツァン「光の華」(STW-7024/7025 ¥3,000)
サトワミュージック http://www.satowa-music.com/