おじんカウンセラーのトホホ通信 その3 酸欠とネコパンチ

【その3】酸欠とネコパンチ
今回は、自己紹介はお休みして、近況報告です。

ここ数年メタボリックシンドロームなどという言葉がちまたにあふれています。要は、「太りすぎはイカン!」ということで、みなさん痩せましょうという強迫的!雰囲気が日本の社会の中に出ているのでしょうね。世間でさんざん騒ぐものですから、私も、どうも腰回りの肉が気になりだして、ついに、メタボ対策で、おととしの年末からほぼ毎週ボクシングジムに通っています。

父の影響もあったのかもしれませんが、子供のころからボクシング(を観るのが)好きでした。幼少期の私のヒーローは、当時のカシアス・クレイ、後のモハメッド・アリでした。クレイは、イスラム教に入信してからアリというイスラム名に変えました。アリの試合は、私にとっては、魔術のようなものでした。どんなに目を凝らしても、あまりにパンチが速いので、なんで対戦相手がKOされるのか、さっぱりわかりません。アリがすっと動くと、対戦相手の大男が、膝を折って倒れて起き上がらないのです。

アリは、私のヒーローでしたので、彼が、ベトナム戦争で徴兵拒否をして、ライセンスをはく奪された時は、本当に残念でした。そして、4年間のブランクの後、当時無敵と言われたジョージ・フォアマンを8、ラウンドの一瞬のすきをついて倒したキンシャサの奇跡は、涙なしには見られない感動もので・・・なんてことを話しはじめると止まらなくなってしまいます!

そんなわけで、私は、ボクシングがあらゆる格闘技の中で一番大好きなのですが、これまで、ボクシングを自分がやるという発想は、私の中にはありませんでした。なにしろ、ボクシングは、プロの選手やプロをめざす天才たちがやるスポーツで、「カッコイー」と思いながら、運動が得意でもない私が触れてはいけない世界だと思っていたからです。しかし、ボクシングジムでは、まったくのズブの素人もトレーニングをさせてくれるわけで、しかも、最近では、女性もボクシングジムに通う時代なんですね。

・・それで、ついに、私もおととしの年末からボクシングジムに通い始めました。
これが、かなりキツイです。ストレッチから始まり、シャドーボクシングを6ラウンド、サンドバッグを3ラウンド、リングでのミット打ちを1ラウンド、パンチングボールを3ラウンド、縄跳びを2ラウンド、そして、最後のストレッチで、合計約1時間半程度のプログラムです。いやはや、初日は、大変でした。最初は張り切っていたものの、すぐにジャブは猫パンチになり、パンチングボールは、私からどんどん離れていき、ボールにパンチが当たる打率は1割打者で、縄跳びの時点では、酸欠なってしまうというなさけなさでした。ジムに行った後は、腕が上がらなくなるし・・。

そんなていたらくな私の隣では、20代の主婦とおぼしき女性が、「私、なんだか知らないけどぉ、全然汗かかないんですよぉー」などと言いながら、涼しい顔でパンチングボールを打っていました。彼女には、「(パンチングボ-ルは)そのうち当たるようになりますよ」って励まされてしまいましたし、あー、なさけない・・。

このジムの会長さんは、桜井孝雄さんです。

桜井孝雄さんと言えば、50代以上の方には記憶に残っている方も多いかと思います。1964年の東京オリンピックで、ボクシングのバンタム級の金メダリストになった方です。ちなみに、これまでのオリンピックの歴史の中で、日本人でボクシングの金メダルをとったのは、桜井さんだけです。

桜井さんに初めてお会いした時は、緊張し、声が上ずってしまいました。なんたって、小学校時代の私たちのヒーローですからね。その桜井会長が、シャドーボクシングをやっている私に、「向後さん、慣れてきた?」とか、「今日は休み?」とか声をかけてくれるんです。いやー、感動です。桜井会長から直々に左フックと左アッパーの打ち方を教えていただいたのですが、その時、会長が最初に見本を示してくれました。かっこいいんだなー、これが。しっかりと腰が入っていて、サンドバックが折れ曲がるような勢いに見えました。

その桜井会長のスパーリングの動画を見ました。桜井会長は、現在60代なのですが、サウスポーから繰り出すジャブはとても速く、チャンスとなると強烈なストレートやフックやアッパーが炸裂します。相手が攻撃を仕掛けてくると、ほんのグローブひとつ分ぐらいでパンチをかわします。フットワークも軽いし、おみごと!の一言でした。しかも、スパーリングが終わった後、にこにこしていて、息も全く上がっていません。

ひとつのことを極めつくした人の技というのは、美しいです。

桜井会長のスパーリングを観たとき、最近知ったゾーンとかフローという言葉が浮かんできました。ゾーンあるいは、フローとは、集中力が極度に高まり、自分の力が何の矛盾もなく働いて、必然であるかのごとくそれがすべて決まって、静寂の中でその風景がスローモーションのように展開する状態のことを示します。桜井会長は、そうしたゾーンの状態を何度も経験してきたのだろうなと思いました。そして、そのときのイメージが、しっかりと身体の中にも心の中にも残っているのでしょう。だからこそ、あれだけの美しい動きができるのだろうと思いました。

それにひきかえ、私の方は、小学校時代に持っていた壊れかけたブリキのロボットのようなぎこちない動きです。
それでも、「継続は力なり」という言葉を信じて、なんとか、左ジャブ→右ストレート→左アッパー→左フック→右ストレートのコンビネーションをかっこよく?決めれるようになりたいというのが、当面の目標です。

今日は、これからジムに行ってきます。桜井会長の息子さんの大祐トレーナー(23歳)から、「向後さん、後半ばててましたね」って言われないようにしなきゃ。

向後善之 日本トランスパーソナル学会事務局長