特別寄稿:最近のトランスパーソナル心理学研究所での体験

特別寄稿
最近のトランスパーソナル心理学研究所での体験
田尻 宇成
(本学会常任理事)

皆様初めまして。私は2008年の末に、トランスパーソナル心理学研究所(Institute of Transpersonal Psychology 以下ITP)の大学院を卒業、トランスパーソナル心理学博士をとり、論文を終えました。最近少し余裕がでてきましたので、JTAのお手伝いさせていただけたらと思います。この記事では、ITPのこととプロジェクティブ・ドリームワーク・ワークショプの宣伝をさせていただきたいとおもいます。

 最近、ITP創設者のロバート・フレイジャー博士に改めてITPのことを聞く機会がありました。フレイジャー博士は、慶応大学に留学し、その経験をハーバード大の博士論文にした人物です。日本滞在時に、創始者の植芝 盛平に直接合気道を習ったのです。現在はアメリカでは数少ない7段をもっています。何故、合気道を大学院で教えるようにしたのかというと、合気道の神秘思想が ITPの理想に近いと考えたようです。つまり、トランスパーソナル学の一つの流れとして、ボディーワークからくるスピリチャリティーの探求、そして、特に合気道の影響があることは、否めません。

 そのフレイジャー博士によると、今のITPは昔と違い、学問の質を高めようと力をいれているのだそうです。その方向性からか、ITPでは、オーガニック・インクワイヤリーとインテグラル・インクワイヤリーという2つの質的研究法が開発されて、これから更に活躍しそうな感じです。ところで、ITPは実はハーパードの博士課程をモデルにして作ったのだということが、このインタビューでわかっています。また、創設時から変わらないことは、個人のトランスフォメーション(変容)を、教授も生徒も信じなければいけないという学風だそうです。そうでない教授や生徒はふさわしくないので、辞めさせられることもあります。また、創設者や関係者の視点によると、合気道は、人間関係においてのトランスフォメーションを支える道具や英知を秘めているということです。徹底的な個人主義をつらぬくアメリカで、他人を扱う為の知識や英知が、体の動きのなかに象徴されているように思えるのでしょう。

 ITPでは、現在、博士課程では、臨床心理学とトランスパーソナル心理学博士という2つの学位を与えています。学生が若年化しつつあり、職を身につけることが先行することが多いことから、臨床心理の学位を設置しています。昔はマズロー理論的な発想から、第2の人生を歩もうとする40代以上の学生だけを意識して入学させていたようです。ある程度基本的な生活基盤、つまり、物質的な基盤ができていて、次の段階を目指すための学習という意味あいが強かったようです。現在のトランスパーソナル心理学博士の学位は、こういったタイプの学生にアピールするものだとおもいます。教育内容は、臨床全般の知識を学んだあと、臨床という職業に縛られないで、トランスパーソナル心理学の教育、手法、ツールなどを学び、それを実践するのです。クリエイティブ・エクスプレッション、トランスパーソナル教育、スピリチャル・ガイダンスという専門分野をもつことができます。私の場合はスピリチャル・ガイダンスという分野が専門です。

 スピリチャル・ガイダンスは、臨床と違い、クライエントと個人の立場は対等です。カウンセリング的な要素は臨床とはほとんど変わりませんが、スピリットが誰にも存在するという前提やスピリットをより重視してカウンセリングが進められていきます。精神性の悩みを扱いますが、間接的に治療効果も視野にいれています。スタンフォード大には、スピリチュアル・ケアをするグループがありますが、それはあくまで信仰を持つ宣教師、グルたちやその使徒、弟子たちが、その流派に属する人々たちに対し、医療現場で直面する苦しみの中で、精神的に支えられるようにすることです。しかし、スピリチャル・ガイダンスは、信仰や信念体系に対する悩みや不信なども扱います。手法の基本は、現在のところ、メディテーション、ドリームワーク、サイコシンセシス、詩、そして、ユング派のアプローチなどです。また、先ほどのサイコマンティウムも一つのアプローチであり、私の論文はそれに関するものです。人によっては、キャロリン・メイズの理論なども参照することもあります。クライエントとの間で焦点になることのひとつは、重要な決断をする時に、その人の持つスピリチャリティーのルールにどれほど則して判断を行っているかということです。

 ITPで気づいたことは、トランスパーソナルという学問は、実は日本発の人間に対する思想に支えられているか、もしくは、密接な関係にあるということです。また現在、合気道の思想と、それが臨床の現場やあるいは自己成長のワークの現場にどのように関連しているかを理解しようという試みがフレイジャー博士など、トランスパーソナル心理学者でなされていることは、私の心の支えになった気がします。そこからすると、日本人の考え方がトランスパーソナル学へ間接的にも貢献していることを私たちは誇りにしてもいいのではないかと思います。

ところで、日本のトランスパーソナル学会に所属している方は、ITPの学生よりもトランスパーソナルに関することをご存知ではないかと察します。それは私たちの歴史に配慮をする意識から来る強みではないかと思います。ITPでは、残念ながら、そういった歴史的な検証をすることはありませんでした。もちろん、それは、どちらかというと、歴史家や社会学の専門なのですが、学問に対する共通認識がないことから、いつでもトランスパーソナルとは何かということから始めなければならないことが、少し苦痛でした。

 そういう意味で、トランスパーソナルという学問は、日本の学会で学会員が共通認識をより深めることで、発展する可能性があるのではないかと察します。さらなる発展を心に描きながら、これから学会に貢献できたらとおもいます。

田尻 宇成 (たじり たかなり)
トランスパーソナル心理学博士(Ph.D.)。スピリチャル・ガイダンスというITPの認証を受ける。トランスパーソナル研究開発と応用を目的とするプロジェクト・トランスパーソナル主宰。サイコシンセシス、サイコドラマ、プロジェクティブ・ドリームワーク、サイコマンティウム、ヒプノシス、マインドフルネス・メディテーション等を利用しながら、セミナーや個人セッションをします。留学相談も個人的にします。上智大文学部心理学科出身、他にもコミュニケーション(映像制作)の勉強をしたことがあります。カナダ人の妻と2歳の息子と東京在住。魚座。エキナセアとカモミール栽培中。

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