特別寄稿:グリーフサポートを全てのご遺族に
特別寄稿
グリーフサポートを全てのご遺族に
橋爪 謙一郎
(株式会社ジーエスアイ代表取締役・本学会理事)
トランスパーソナル心理学との出会いは、渡米してご遺体への処置(エンバーミング)を学んでいる1995年に遡ります。葬儀と心理学のつながりは、日本ではまったく感じられないかと思いますが、アメリカでは葬儀に従事するスタッフ全員に心理学、グリーフ(悲嘆)、コミュニケーション・スキルは、必須の知識・スキルとして学ぶことも義務付けられています。しかし、エンバーマーになるための大学で提供されていた心理学だけでは物足りなく感じ、「もっと心理学を学びたい、ご遺族のメンタルサポートをしっかりと学びたい」と言う思いが次第に大きくなっていったのです。できることなら日本人によりあった心理学を学びたいと大学院探しを始めました。その中から、John F. Kennedyでホリスティック心理学を学びながら、葬儀社で、葬儀の担当とグリーフカウンセラーという2つの役割を持って働いていました。
毎日が自分にとって、気づきや学びの連続でした。
僕がアメリカの葬儀社で働いていたときに、お別れの場を準備することの重要さを教えてくれたエピソードを紹介したいと思います。
ある日、葬儀の会場にいらした40歳代の男性が、「お世話になった方の葬儀に出て、お別れを言いに来たけど、会場に入ろうとすると足がすくんでしまってどうしても前に進めないんだ。」と僕にこぼし、悔しそうに涙を流したのです。それまでも、顔を見たことがあったのですが、いつでもロビーにいて、葬儀の会場に入っていなかったことをこの一言を聞いて思い出した。
ロビーにある椅子を勧めて「僕でよければお話を聞かせてください」と話しかけました。そうすると、彼は、「親父は、僕が小さいころに亡くなったんだけど、事情があって十分なお別れを許してもらえなかったんだよ。それから、人とのお別れの場で、どうしていいか分からないし、身体が思うとおりに動いてくれないんだよ。」
大好きだったお父さんに「さようなら」や「パパ、大好きだよ。」という一言を伝えられなかったことが、40年近く経ったその時でも影響を与えてしまっていたのです。大切な人の葬儀であればあるほど、お別れを出来ない自分がいるのだそうです。「彼を悲しませたくない」と思ってした家族の選択は、まったく逆の効果を与えてしまっていた。そのときの僕にできたことは、彼に付き添って話を聞き、彼が決心を決めたときに一緒に会場に入っていくことだけでした。その中で、彼自身は、自分の父との別れやそれに伴う様々な感情に向き合い、その悲しみとの折り合いをつけるきっかけを作ることが出来たのです。
そんな環境にいたおかげで、日本でも、こんな思いを抱えているご遺族が沢山いるのではないかと改めて客観的に見ることができるようになり、そんな状況を変えるために何が必要なのかを必死に考えていました。「日本では、しきたりとか世間体とかばかりが取り上げられることの多い葬儀で、一体どのようにしてグリーフと向き合っているのか?」、「グリーフの影響を受け、コミュニケーションがとれなくなり、人間関係も崩れ、他者への信頼を失っている人は多いのではないだろうか?」などと考え続けました
こうした大きな悲しみに暮れる人々が、内にしまい込んだ思いや感情などを自分の外に出せるように、周囲の人々が温かく支えてあげたいという思いが強くなっていきました。安心して自分の気持ちや感情などを表現でき、心を開いて話を聞いてもらうことができる人や場が、今、求められていると、そして、そのような機会を提供したいと考えたのです。
2001年に帰国をし、まずは、葬祭業の環境を変えるための人材教育に2年間を費やしました。と同時にご遺族に支援を直接提供するための組織作りを同時に行い、2004年に会社を立ち上げ、今は、ご遺族への支援を多面的に行っています。
そこで、私自身がグリーフサポートを提供する上で常に意識をしている重要な3つの柱を紹介します。
① サポートマインド:サポートの為の横の位置
② 専門性:グリーフについての知識+スキル
③ セルフケア:サポートを継続する為の習慣
グリーフサポートによって支えられたら、ありのままの感情・行動を自分らしく表に出せるようになるはずです。
そんな周囲からの支えがあるからこそ、大切な人がいない環境に向き合うことも出来、受け入れ、自らの力で生きる喜びを再び持つことができるようになると信じています。
グリーフサポートを提供しようと考えている人には、一人で全てを抱える必要のないことも覚えておいて欲しいと思います。何か悩んだり、壁にぶつかってしまったように感じた時に、ジーエスアイという存在を思い出して欲しい。