おじんカウンセラーのトホホ通信 その21 吉福伸逸氏インタビュー(2)
【その21 吉福氏インタビュー(2)】
引き続き、吉福さんとの対談です。
吉福
人と言うのはね、社会的な動物であると言うことは明らかですけど、その社会的な動物であると言うことを絶対視する必要ないほど、我々は、もっと大きな可能性を秘めていると僕は思っていますので。その点は、常に、なんかしっくりこなくて。
向後
さっきの話ですと、要するにペルソナ(用語解説1参照)を作っていると言うことになっちゃいますね。
吉福
そうそう。ペルソナをしっかりしていれば、外に向かっては、大丈夫。(笑)
向後
自己実現と言う名のペルソナをつけているってこるみたいなね、感じになっちゃいますよね。
吉福
そうですね。
それがくるのが、ようするに、原初の分離の時に作り上げられたことだと思うんですね。原初の分離に、しっかりと目を向けて行かないと・・。それは、運命的にわれわれが定められているこというふうに、僕はとらえているんです。それを乗り越えていくことができると、僕は思っているわけですよ。乗り超えたらどんな人間になるのかは、それは、何の保証もないけれど、乗り越えることは、不可能ではないと、僕は考えているんですよ。
で、極端な状態に直面すると、人はさ。極端な状態というのは、受け止められないような、サバイバルさえ不可能な状態にわれわれが直面したり、あるいは、歓喜のきわみ、エクスタシーのきわみというもの、極端な、そういうエモーショナルな反応をする状況に直面すると、どんな人であれ、人は、きわめて、画一的な反応をするんですよ。
向後
例えば、どういうことですか?
吉福
例えば、サバイバルが危ない、生き残れないかもしれない状況に追い込まれた人は、なんとか生き残ろうとする反応をする。
向後
そうですね。
吉福
中には、早くあきらめる人もいますけど。
向後
とじこもる人もいますよね。
吉福
それも、ひとつの、とじこもるという形の要するにサバイバルの方法じゃないですか。
向後
だんだんやられていくのは、確実なんだけど・・。
吉福
確実なんだけど、とにかくひきこもって、なんとかそれを精神的に受け止められるようにしようと・・。そういう画一的な反応って、人間は、あるじゃないですか。そこに、人間としての共通性を見出していこうと。そこが人間としてのひとつの究極の姿なわけですね。だから、いのちを失うと言うところにいったとき、ひとつの人間としての本性が出てるわけです。Flight & Fight ってあるじゃないですか。
向後
逃避‐闘争反応。
吉福
そう、逃避‐闘争反応。だれでもそうなんですね。その反応は、逃避のしかたも違うし、闘争の反応も違いますけど、基本的に同じメカニズムで反応しますよね。それを見た時、僕は、あー、ここに、人間としての原点があるんだと思うわけですよ。
それはさ、やっぱり、社会性の問題、基本的に自他の問題ですよ。
自らと社会、自らと世間との対峙の問題で、それを癒す方法があるのか?ということなんです。そういう画一的な反応が存在していると言うことはですね。
なぜそうなるのかというと、だれもがそうなんだということですよ。そういう状況になると。
追い込まれる状況と言うのは、自然災害とかそういうことを全部含めてですよ、世界からの襲撃なわけですよ。基本的にはね。
世界そのものが、それが、パーソナライズされていると思いますから、僕はそこに、その相手、襲ってくる自然界そのものにすらも、自然界そのものが、同じ状況に置かれると、逃避-闘争反応をすると言うことで、共通項が見出されるわけですよ。
相手が特に人間であった場合、それが集合的であっても個人であっても、相手の間に共通の画一的な反応が存在するわけですよ。画一的なエモーショナルなものが秘められているわけですよ。
わかりますか?
向後
わかります。
吉福
ということは、そこに共通の基盤、コモングラウンドがあるわけですよ。そのコモングラウンドにしっかりと目を向けさえすれば、われわれは、傷を、自らの力で知らず知らずのうちに癒していける力を持っているんだと思いますね。
向後
今ね、そういうシステムがうまく働いていないと思うんです。
吉福
まったく働いていないと思いますね。
その共通の基盤なんかを、僕はさ、「悲しみの共同体(用語解説2参照)」と呼んだりとか、あるいは、悲しみの共同体だけでなくてもかまわないんですよ、なんともいえない繋がった部分、人が直面した時に必ず共通の反応をする部分ってありますよね。悲しみだけじゃなくてもいいんですよ。怒りでもいいんです。喜びでもかまわないですよね。そういうのがありますから、そこに目を向けていきさえすれば、分離がなくなるわけではないですけど、人は十分に、分離の幻想による圧倒されるような恐怖感からは、しだいに解放される。
ちょっと飛躍があったかな?伝わりますか?こうやって面と向かって話しているとわかるんだけど・・。
向後
わかりますよ。ただ、一瞬読者に伝わるかどうかってことが頭によぎりましたが。(笑)
吉福
それが、最大の問題なんですよ。そこは、向後さん、うまくまとめて・・。(笑)
向後
共通の基盤についてですが、共生期(用語解説3参照)なんかに見えますよね。ほんの生後6ヶ月程度のことなのですが、要するに共生期という、母子がまったく共通の基盤を持つ時期というのがありますよね。
吉福
そうだね。他を自覚しはじめると言うのは、そのあとから始まりますね。
向後
そこから、苦悩が始まってきて、あるいは、自分をごまかすということが始まってくるわけですね。でも、その分離の根底には、共通の基盤があって、それは、共生期に経験しているというわけです。
吉福
そう、(自他の分離はあるのだけれど)その根底にある共通の基盤に目を向けようということです。
共通の基盤として、たとえば、僕と向後さんが、しっかりと、あなたもそうだ、ぼくもそうだという、彼や彼もそうだ、これまで敵だと思っていたあの人もそうだというように見るとさ、少なくともモンスターに見えないんですよ。社会がさ。
社会そのものも、個人もそうだし、集合的なものもそうなんですが、モンスターにはならないんですよ。わかりますか?
向後
はい。
吉福
モンスターみたいなことしますよ。集合的になると。
原爆落としたりさ。アウシュビッツみたいなことしたりしますけど。
モンスターと呼ばれるようなことをやる人たちは、そのことに気づいていないんですよ。
向後
たとえば、一般社会の中でも、DVとか虐待とかパワーハラスメントとか、モンスター的なことってあるじゃないですか?
御存じのように、僕は、それにすぐ反応しちゃうんだけど。(笑)
吉福
そうだね。(笑)
ははは。
向後
すぐ、反応しちゃうんだけど、最近少し上達しましてね、あんまり反応しないですむようになった、少しですけどね。
最初ね、圧倒されるような感じが来るわけですよ。そうなると、こっちは、もうね、全力を持って戦おうとするんです。
ただ、相手をよく見ると、要するに共通の基盤と言うものがあるし、彼らの中のどこかに自分を見るわけですよ。そうすると冷静に対処することができる。彼らの行為は否定するけれど、モンスター的行為といっしょのレベルで戦わないってことかなって思います。
吉福
僕なんかのセッションを、見てわかるでしょ?
なにしているのか。
向後
よくわかります。
吉福さんは、そうしたモンスター的な行為をする人たちに対しても、かなりつっこんでいきますよね。
吉福
だって、その人が何をしようとも、そこに自分と同じ基盤があるということが見えてくると、全然恐ろしいとかそういうことじゃまったくなくなるんですよ。
僕は、前景とか背景とかいう話を僕するじゃないですか。前景になにがあろうとも背景がしっかりと繋がっていれば、僕から見るとCommon wealth なんですよ。
それこそが、つまり人と人との間に、コモンなウェルス、富が見えれば、それさえ見えれば、Common wealthさえ見えれば、なにも怖くないんですよ。
向後
そこが見えてくると、モンスターと呼ばれる人たちすらも、自然に変わってくる、っていうことなんですね。
<つづく>
【用語解説】
1、ペルソナ
ユンソナではありません。ペルソナです。ユング心理学で提唱されている概念で、社会に適応するためにつけている心理的な仮面を示します。
2、悲しみの共同体
人間の心の奥底には、だれもが持っている共通の基盤があり、そこには、深い悲しみ、喜び、怒り、さびしさなどの根源的な情念がある。その根源的な情念の場を、吉福さんは、「悲しみの共同体」と表現しています。
3、共生期
ハンガリー生まれの精神科医マーガレット・マーラーが提唱した概念。生まれてから数か月の間、子供は自己と他者の区別が十分にできていない。この時期は、あたかも母子一体の感覚が、母親子供の双方にある。マーラーは、この共生期の前に、自閉期があるとしているが、反論もある。
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(第21回おわり)
向後善之
日本トランスパーソナル学会事務局長
ハートコンシェルジュ カウンセラー