おじんカウンセラーのトホホ通信 その23 吉福伸逸氏インタビュー(4)
【その23 吉福氏との対談(4)】
向後
だから、なんか不測の思いがけない事態が起こった時っていう、その時がマキシマムな気がするんですよね。で、そっから例えばセラピストが、セラピストじゃなくてもいいんですけどね、近くにいる人が、道場に座るという感じで、そこにずんっといればね。そのマキシマムから必ず落ちてくるというような感覚がありますね。
吉福
だから、クライアントとセラピストという、こういう対比の中で考えていくとさ、要するにクライアントの症状そのものが最も激しくなっている時ですよね。マキシマムなものを展開している時に、その時のセラピストの心の奥底の反応なんですよ。それが問題なんですね。なぜかというと、病状次第ですけれども、一般的に統合失調症の方であるとか、極端なボーダーラインの方なんていうのは、一見表面をみて僕がどーんと座っていて何も起こってない、何の反応をしてないように見えても、僕の心の中は波立っていたら、これは、確実に感じ取りますから。
向後
敏感ですからね。
吉福
ええ。心の中が波立ってない、っていうのが大切なんですよ。一見何の反応もなくじーっとただしているように見えても、この心の中の波立ちが問題なんですよ。これが最も難しいところです。
向後
そうですね。
吉福
一見何の反応もしていないように見えることを「演じる」ことができる人はいると思うんですよ。でもそれは通用しない。
向後
それはもう確実にバレますよね(笑)。セラピストなんかより、はるかに敏感ですもんね。
吉福
そうですよー。彼らの方が遥かに鋭敏で、感性が高いですよ。
向後
セラピストが「いかにごまかさないか」っていうことですよね。
吉福
だから、感性の低い人が感性の高い人を治すことなんかできるのか?と僕は思うんですよね。
向後
それは、非常に難しいんじゃないでしょうかねぇ。
吉福
さっき向後さんのおっしゃってた、感性の高い人の展開するメロドラマに、感性の低い人がくっついてやっていくと、たまらなくなるでしょう、感性の低い人は。あまりのことに。メロドラマが急展開するから。
向後
大変ですからね。
吉福
でも、もっとおかしくなると、「おかしいおかしい」って、相手のことを病理だとジャッジすることが、どんどん始まっていくわけですよね。
向後
そうですよね。
吉福
だから、僕もようわかりません。
向後
はい?
吉福
いや、僕もようわからないです、何がなんだか(笑)わかる?統合失調症って何だって言われた時に、別におかしくないって思うんだよ。
向後
そうですね。
吉福
別に・・・どうってことないんですよ。勝手にメロドラマやってますから。
向後
最大級のメロドラマですね。
吉福
まあメロドラマがほしいわけなんだけど、本人にとっては。僕にとってはさ、単なる繰り返しなんだよ、反復・反復・反復・・・ 世界中がそれやってるんだもん。正常だっていわれる人も。何も変わらないですよ。
向後
まあそうですよね。
吉福
僕は内容には目を向けないって言ったでしょ。内容が少し激しいだけなんですよ。
向後
確かにね。
吉福
そうするとさ、何がなんだか僕はわからない、区別がつかないんですよ。
向後
僕が統合失調症(用語解説1参照)の人とセラピーをやっていて感じるのは、表現形態は確かに、CIAが出てきたりUFOが出てきたり・・・
吉福
いくつかのパターンが存在していますよね。
向後
だけど、その根底に流れているものっていうのは、恐怖だったり、そういったものの表現でしょう。
吉福
表現です。我々が持っているものでしょ。
向後
僕らは違う形で表現しているけれども、彼らはああいった形で表現している。
吉福
あの手の表現は、社会が受け入れられないんですよね、家族に始まり。それが僕は良くわからないんです。だから僕は良くわかりません、どこに境界線があるのか。
向後
なるほど。
吉福
問題が内容だから。内容は意味がないから、僕からすると。どんな内容であっても。
向後
そうですよね。その根底にあるものが、本来の扱うべきテーマなんでしょうね。
吉福
その奥にあるものがね。
向後
だから、あれ普通なんですよね。僕が良くやるのがね、幻聴の人に対するひとりグループセラピーというか、ディスカッションなんですが。クライアントさんに通訳になってもらって、幻聴同士でディスカッションしてもらうんです。要するに、一体何を言いたいのかは、まあそれは聞きますけど、そこで何を狙っているかっていうのは、幻聴同士の中でプロセスが起こってくるじゃないですか。それで、その「わ~っ」ってなってるのが、やがて落ち着いてくるんです。
吉福
沈静化していく。
向後
沈静化していくっていう。で、しゃべってるうちに落ち着いてくるだろうという。
吉福
もう、間違いなく。
向後
だから、話の内容は確かに、あんまり意味がないですよ。例えば「お前は最低だ」と言っている声がいたとして、声が聞こえるということとか、別に最低かどうかっていうのは、どうでもいいわけで。それによってクライアントさんが恐怖を感じていて、幻聴は、恐怖の表現なんですよね。
吉福
そうです。
向後
それによって恐怖を感じてるように見えるけど、実はクライアントさんにもともとある恐怖がそこに反映されていて。それを全部カード出しちゃったら、あんまり怖くなくなってきて、ある種ばかばかしくなる人もいるのかもしれないですね。
吉福
それは、常識的な目から見ると、そういうことだと思いますね。
向後
クライアントさんの中に、それが起こってくるんですよね。
吉福
そう、まったく同じ。
向後
「別に、どうでもいいや」っていう。
吉福
ディスカッションさせるとさ、そういう状態の、いろいろと聞こえる人が何人も集まって話をするとさ、最終的に沈静化していきますよね。何がわかってくるかと言うと、「同じなんだ、みんな」ということですよね。内容の区別にかかわらずね、それがすごく大きい。沈静化の要素の1つとしてね。さっき向後さんがおっしゃっていたことに加えるとね。
向後
そうですね。日本でもね、北海道にべてるの家というグループホームがあるんですよ。
そこでは、統合失調症の人たちが集まって、NPOをやってるんですよ。で、そこで生産活動をしてるんですよ、昆布を作ったり。そこの入所者の人たちとお話ししたことがあるんですけど、面白いなと思ったのが、「妄想大会」っていうのをするらしいんです。最も激しい妄想をした人を表彰するっていうのをやっていて。
吉福
いいアイディアだと思いますねぇ。
向後
そうなんですよ、非常にね。なんというか、妄想の恐怖におののくっていう状態じゃなくなっていくんですよね。
吉福
ゲーム化ですよ。ゲーム化することによって、対象化していって、そこでindulgence、耽溺を止めるんですよね。いいんじゃないですかね、必ず効くとは限りませんけど。
向後
まぁ1つの方法としてね。そうですよね。で、統合失調症ね・・・結局結論出ましたよね・・・「わからない」(笑)
吉福
わからない。
向後
どこが他のと違うのよ、という。
吉福
そう、まったくその通り(笑)。という状態なくらい、僕は「居る」からさ。といってもね、わかりますけどね。
向後
現象として違いますからね。
吉福
現象として違うからね。
向後
ただ、そのプロセスとしては一緒だし。
吉福
プロセスは一緒だし、原理は一緒だし、普通の人と。
向後
ええ。だから、セラピーのやり方としてもね、違わない。
吉福
普通の人と?変わりませんよ。神経症の人とも変わらないし、心身症の人とも変わらないし、普通の人がちょっとなんか、という時に対応するのとも変わりませんよね。
向後
これが、今回のインタビューの結論かな。
吉福
そうですね。すごく極限的なこと言っているけどいいよね。
向後
いやー大丈夫です。わかりにくいところは、解説いれますし。今日は、どうもありがとうございました。
【用語解説】
1、統合失調症
慢性の精神病の一種。幻覚、妄想などの精神病的症状が、断続的に長期に現れる。日本では、統合失調症の人たちには投薬治療が主であるが、アメリカでは投薬治療と共にカウンセリングを併用するのが一般的。長期慢性的な病理と言われているが、2~3割程度は、完全に回復する。
(第23回おわり)
向後善之
日本トランスパーソナル学会事務局長
ハートコンシェルジュ カウンセラー