おじんカウンセラーのトホホ通信 その13 ナルシズムと組織崩壊(2)
【その13】ナルシズムと組織崩壊(2)
共依存的なナルシストたちは、カリスマ性は少ないので、企業の黎明期には、トップになることは、ほとんどないと言ってよいでしょう。しかし、年功序列型の組織では、トップになることがありますし、最初はまともなトップあるいは、傲慢なナルシストがトップに立っていても、2代目3代目ともなると、いつのまにか共依存的なナルシストがトップに立ってしまうことがあります。
ナルシストは、イエスマンを求めますから、No.2は共依存的ナルシストになることが少なくありません。つまり、共依存的ナルシストのトップと共依存的ナルシストのN0.2のコンビという場合もあり得ます。
この共依存コンビになると、明確な方向性がないですから、組織は停滞します。生産性のない内部ルールが強化され、その結果、組織の硬直化も起こります。
また、傲慢-共依存のタイプほど急速ではないにせよ、やがて暴走し始めることがあります。その後の組織崩壊に至るプロセスは、傲慢-共依存タイプとほぼ同様です。
また、傲慢なタイプ、共依存的なタイプともに、壁に突き当った時に、超過敏なナルシズムに転じることがあります。超過敏なナルシズムとは、周りの視線や評価を過剰に気にし、自分がしてしまった「いきちがい」の理由を過度に説明しようとするようになることです。超過敏なタイプは、他者の説得に成功すると、再び元の傲慢なタイプ、共依存的なタイプに戻っていきます。
トップが超過敏なタイプに転ずると、組織の方針がクルクル変わるなんて言うことが起こります。なにをやっても安心できず、他者の意見にふりまわされてしまうわけです。企業コンサルタントの意見を妄信してしまったりする経営者には、このタイプが多いと言えます。優秀なコンサルタントならいいのでしょうが、そうでない場合、迷走暴走の繰り返しになります。
いずれの組み合わせにせよ、暴走、迷走の火に油を注ぐのが、共依存的ナルシストのNo.2の存在です。
ここで、共依存的ナルシズムの傾向を見ていきましょう。
1、エネルギッシュな弱者
「傲慢なナルシズム」の場合には、「権利の主張」や、「特権意識」の要素が強いのに対し、「共依存的なナルシズム」の場合、自分を被害者や孤高のヒーローの立場に置いて、その立場をベースに、他者に罪悪感を投げ付けながら、自分の主張を通していこうとします。
2、0-100の価値観
彼らの他者に対する評価は、ゼロか100です。要求を容れてくれたらその人の評価は100点、拒絶されたら0点なわけです。これは、傲慢なナルシズム、共依存的なナルシズム、超過敏なナルシズムのいずれにも見られる傾向です。
3、くるくる変わる主張
彼らの主張は、しっかりとした自己感が希薄ですから、ときとして180°変わります。外から見ると一貫性がないのですが、彼らの中では、なんらかの自己中心的、あるいは、自己正当化的なもっともらしい理由が存在します。ナルシストたちは、実は、正面切って批判されることを恐れており、自分の立場が不利にならないように主張を平気で変えていきます。傲慢なナルシズムは、その変化についての理由はあまり説明しませんが、共依存的なナルシズムの場合には、自分を被害者的立場に置きながら説明したりします。例えば、「わたしは、みなさんの主張は理解するのだけど、上が反対するし・・。わたしの立場もわかってね」的な言い訳をします。彼らにとっては、保身が第1です。
4、合理化
合理化 (Rationalization)とは、自我防衛機制のひとつで、本当の動機が自覚されていない行動や感情や考え等に論理的、道徳的に受け入れられる様な説明をつける事です。
例えば、利己的な欲求を覆い隠し、「組織を守るためにはしかたがない」などと言ってしまうなどです。これは、これは、傲慢なナルシズム、共依存的なナルシズム、超過敏なナルシズムのいずれにも見られる傾向ですが、共依存的タイプや超過敏なタイプの方が、よりその傾向が強いと言えるでしょう。
5、否認
否認 (Denial)とは、自己像とずれる様な体験をした場合、意識されないような自我防衛機制です。例えば、自分の過去の発言とまったく異なる発言をすることなどで、本人も過去の発言を覚えていません。これは、傲慢なナルシズム、共依存的なナルシズム、超過敏なナルシズムのいずれにも見られる傾向です。
6、投影同一視
投影同一視(Projective Identification)は、投影(Projection)とは異なり、自分の中の不快な部分を切り離し(分裂:splitting)、特定の対象に投影し、その切り離し投影した部分と対象を同一視し、批判したり攻撃したりする自我防衛機制です。
例えば、自分の傲慢さや特権意識を切り離し、その願望を他者に投影し、「あなたは、傲慢な特権意識があるね」などと非難することです。言われた側からすれば、「それは、あなたのことでしょ?」と言いたくなってしまいます。これも、これは、傲慢なナルシズム、共依存的なナルシズム、超過敏なナルシズムのいずれにも見られる傾向です。
7、カテゴリーエラー
カテゴリーエラーとは、巧妙な話のすり替えです。
例えば、現実感覚を持った社員のAさんが、業績の悪化の原因を分析した結果と、その対応策を、ナルシストのB上司に提案した場合で、その提案にB上司にとって不利なことが述べられている場合、B上司は、「みんな一生懸命やっているんだ。君は、みんなが怠けているとでも言うのかね?」とA社員をたしなめたりすることです。
確かに、B上司の言う「みんな一生懸命やっている」のは、正しいことでしょう。しかし、Aさんが主張しているのは、「一生懸命やっているのかいないのか」ではなく、業績をよくするための提案です。つまり、Aさんが、経営上のカテゴリーの話をしているにもかかわらず、B上司は、巧妙に精神論や協調性のカテゴリーの話にすり替えてしまっています。
こうしたすり替えの背景には、前述した、合理化、否認、投影同一視などの自我防衛機制が存在します。
こうしたカテゴリーエラーの傾向は、これは、傲慢なナルシズム、共依存的なナルシズム、超過敏なナルシズムのいずれにも見られる傾向です。
8、価値観の強要
ナルシズムの人たちの最大の特徴は、自分の価値観を他者も持っているのが当然と考えることです。彼らの中には、価値観の多様性などという概念はありません。そして、相手の立場に立って物事を見ることによって生じる共感という概念が希薄です。ですから、自分と価値観の違う人に対しては、徹底的に自分の価値観を強要しようとします。
そして、同じ価値観の強要は、特に「共依存的なナルシズム」においては、非常に巧妙になされます。例えば、傲慢なナルシストたちが、「私の言っていること(価値観)を理解できないお前は、無能だ」と言ってしまうのに対し、共依存的なナルシストたちは、「あなたも、私と同じように、もっと会社の環境が良くなればいいのにって感じているのよね」みたいな言い方で、巧妙に持論に巻き込んでいきます。あるいは、自分の価値観についてこれない人たちに対し「私がこんなに努力しているのに・・」といった理論で、罪悪感を投げかけることによって、相手をコントロールしようとします。
9、マッチポンプ的フィードバック
ナルシストたちは、自分に対する賛同者を求めます。そのひとつの方法として、自分で噂を流しておいて、その噂を根拠に他者を攻撃したり非難したりします。例えば、ナルシストのC氏が、C氏の意見と異なる意見を主張するD氏を非難する噂を流します。「D氏は、どうも前向きではない」みたいな話をC氏の上司のE氏に流します。そこで、E氏が「確かに、D君は、少し保守的なところがあるね」みたいなことを言ったとすると、C氏は、鬼の首を取ったかのように、「Eさんも言っていたけれど、Dさんも、もう少し前向きにならないとね」というような噂を流し始めます。あげくのはてに、C氏は、D氏に向かって、「みんな君のことを、前向きな姿勢がないって言っているよ」みたいなことを言い始めます。こうしたやり方を、私は、「マッチポンプ的フィードバック」と呼んでいます。
10、しつこい攻撃
ナルシストたちは、相手が屈するまであきらめません。常にいやみを言う、上げ足をとる、いいがかりをつける、相手のちょっとした失敗を針小棒大に宣伝するなどあらゆる手を使います。最近では、ネットを使った匿名での攻撃なんかもあります。これは、傲慢なナルシズムと共依存的なナルシズムに顕著な傾向と言えるでしょう。
11、上にはイエスマン、下には傲慢
彼らには、明確なポリシーもなく、保身・栄達が第1ですから、上からにらまれることは、ご法度です。そして、より上に覚えがめでたくなるように、上からの指示以上のことを実現しようとします。そのため、部下に対しては、過酷な要求をしたりします。
こうした人たちが、N0.2にいたら、組織の迷走・暴走は止まりません。No.2は、昔の武家社会で言えば、家老の立場です。家老の本来の仕事は、殿ご乱心のさいに、腹を切るのを覚悟で諌めることです。
その家老が、ナルシストであれば、その自浄的なシステムが機能しなくなります。
12、都合のよい現実しか見ない
ナルシストたちは、あらゆる情報を入手しても、自分に都合の悪い情報は、なんらかの理由をつけて、無視します。まあ、戦時中の大本営発表みたいなものです。この傾向があるので、彼らの周りには、どんどん共依存的なナルシストたちが集まってきます。
次回は、こうした傾向を持つナルシズムの人たちが組織を崩壊させていくプロセスを見ていきたいと思います。
向後善之
日本トランスパーソナル学会事務局長
ハートコンシェルジュ カウンセラー