おじんカウンセラーのトホホ通信 その24 吉福伸逸氏インタビュー(5)

【その24 吉福さんとの対談を終えて】

【インタビューを終えて・・向後善之】

吉福さんのお話は、いつも刺激的です。

吉福さんと私の間で最近よく話題になるのが、セラピストの過剰介入についてです。セラピストは、どうしても、「私が、クライアントさんをなんとかしてあげなきゃ」という気持ちになりやすく、それが、過剰介入につながっていきます。

ある程度の介入は必要です。例えば、イメージを使ったり、認知行動的にアプローチしたり、アートを使ったりします。しかし、それが度を越してしまうと、ろくなことがありません。セラピー技法に耽溺してしまって、セラピストの自己満足に終始するセラピーになってしまったり、自分の考えをクライアントさんに押し付けてしまったり、クライアントさんをコントロールしてしまったりということが起こります。

そうなると、クライアントさんは、セラピストに依存してしまい、自分で考えて解決していくことをやめてしまうかもしれません。それに、そもそも、そういう過剰介入は、セラピストが、クライアントさんひとりひとりが、自分自身のテーマを乗り越えていく力を持っていることを忘れてしまっている状態で起こることです。これは、傲慢な態度であり、セラピストとして最も忌むべき姿勢です。

その結果、クライアントさんをより傷つけてしまうこともあるわけで、我々セラピストが、しっかりと自戒しなければならないことです。

そして、最も重要なセラピストとしての姿勢は、クライアントさんの前に、しっかりとそこにいるということでしょう。インタビューの中で、「道場に座る」という言葉で表わされる姿勢です。セラピストの中に、自己欺瞞や防衛がなく、ただ、クライアントさんといっしょにいるということに集中している状態だと、私は思います。

そのあたりの姿勢については、吉福さんから学ぶところがとても多く、ここ数年、吉福さんのセッションを手伝わせていただき、ありがたく思います。

インタビューの中で、「メロドラマ」という言葉が出てきました。これについて、若干説明を加えたいと思います。

人は、精神的な外傷を受けると、パターン化した思考・行動を繰り返すようになります。例えば、いじめを受けた人が、人から攻撃されないように、人との接触を避ける、あるいは逆に、攻撃的に人に対するというパターンを繰り返すことがあります。このように繰り返されるパターンは、反復強迫と呼ばれ、その多くは無意識的になされます。

さらに、精神的な外傷を受けた人は、その心の傷の痛みを共感的に理解してくれる人に出会ったとします。例えば、セラピストですね。

その人は、自分の心の傷が何に由来するのかに気付き、自分がいかに理不尽な仕打ちを受けてきたのかを理解し、そして、その傷が共感によって癒されることを知ります。これは、重要なプロセスで、こうした経験がなければ、心の傷を克服していくことは、なかなか難しいと言ってよいでしょう。

しかし、セラピーは、それだけでは、まだ不十分なのです。

ある種の人達は、癒されると言うことに耽溺してしまいます。例えば、「自分は、虐待を受けた不幸な人間だ」という自己憐憫に固執してしまいます。周りの人達は、彼らの悲しいストーリーを聴けば、それは、やさしく接してくれるでしょう。従って、そこには、ある種の心地よささえある場合があります。だから、そこで留まってしまう人達がいます。

そういう状態を、あるセラピストは、「悲しみ温泉」と名付けました。傷を受けた人は、だれもが「悲しみ温泉」に入ることがあります。しかし、いつか、そこから出なければ、その先の成長はなくなります。

セラピストの仕事というのは、「悲しみ温泉」に案内することもしますが、「悲しみ温泉」にいっしょにつかるのではなく、のぼせないようにそこから出ることも援助するというものです。インタビューの中で出てきた「過剰介入」は、クライアントさんを、ずっと温泉につからせてしまうことにもなってしまいます。

吉福さんのおっしゃる「メロドラマ」とは、この反復強迫から悲しみ温泉に至る、繰り返しのパターンのことを示すと、私は理解しています。

セラピストがクライアントさんといっしょにメロドラマを演じていたら、セラピーにもなんにもならないわけです。インタビューの中に出てきた、Co-miserate 、すなわち、傷のなめあいの状態になってしまうわけです。場合によっては、クライアントさんは、セラピストに過度に依存するようになってしまうでしょう。

このような状態になってしまったら、クライアントさんが、自分の力に気付き、自分の意思で動くと言うことを、セラピストが阻害することになってしまいます。すなわち、セラピストがクライアントさんの成長の機会を奪ってしまうわけです。

この辺は、セラピストと名乗る人達は、十分に自戒しておかなければならない点だと思います。

今回のインタビューは、ワークショップのあいまに、吉福さんに時間をいただいて行ったものです。インタビューの中にも出てきましたが、このインタビュー内容は、表現などを校正して公開しようとも思ったのですが、「てにをは」の修正ぐらいにとどめ、結局、ほとんどそのままお伝えすることにしました。

お忙しいところ、時間を割いていただいて、吉福さんには感謝しております。

(第24回おわり)

向後善之

日本トランスパーソナル学会事務局長

ハートコンシェルジュ カウンセラー