おじんカウンセラーのトホホ通信 その16 ナルシズムと組織崩壊(5)

【その16】ナルシズムと組織崩壊(5)

今回は、傲慢なナルシストのトップが率いる組織の崩壊を防ぐ手立てはあるのかないのか、そして、そうした組織の中で部下たちは、どのように対応していったらよいのかについて見ていきましょう。

ここで、彼らが、特権意識を持ち、自分の要求を執拗に通そうとするのかについて考えてみましょう。

ナルシシズムというと、多くの人たちは、「あれだけ自己中心的だったら幸せだろう」と思うかもしれませんが、実はそうではありません。

病的なナルシストと言われる人たちは、無条件な愛情をあまり受けてこなかったと言われています。彼らにとって、愛情は、なんらかの条件を満たしたときに得られるものだったのです。成績が良かった時、良い学校に合格したとき、ピアノをうまく弾けた時、かわいくしている時、親の言うことをきいている時など、主に親の欲求をかなえた時のみに愛情を与えられた歴史があります。

そのため、彼らにとって、「条件」は、愛情を受けるためには、死守しなければいけないものになっていきます。その結果、彼らは、自分がいかに優れているか、あるいは、どれだけがんばっているか、どんなにかわいそうか、必死でアピールするようになります。

それと同時に、彼らは、失敗を極度に恐れます。失敗したとたん愛情を受けることができなくなると信じているからです。

言ってみれば、彼らの内面は、実に空虚で、その周りを硬い、しかし非常に薄い殻で覆っているようなものです。

従って、彼らは、実は、はっきりと正面切って意見を言われるともろい部分があり、破れた殻を必死に繕おうとする傾向があります。

傲慢なナルシシストにしても共依存的なナルシシストにしても、自分の欠陥が見え始めたとき、超過敏なナルシシズムに変わり、他者から自分がどのように思われているか過剰に気にするようになることが少なくありません。そして、欠陥が明らかになったら、その欠陥を明確にした相手に徹底的に攻撃性を向けていく、いわゆるボーダーライン傾向を示すようになっていきます。

そして、攻撃を向けても相手が動じないことが明らかになると、彼らは、出来事そのものを無かったことにします。これは、彼らの否認の防衛機制が働いた結果です。

彼らは、状況によって変化します。すなわち、(傲慢なあるいは、共依存的な)ナルシシズム←→超過敏なナルシシズム←→ボーダーライン傾向←→否認の傾向を行ったり来たりするわけです。そして、その背景には、「自分が認められなくなるのではないか」という不安があります。前述したように、彼らの内面は空虚で、しっかりとした自己感がなく、タイトルを失ってしまったら、何もなくなってしまうという恐怖を本質的に持っています。

そのため、必死でタイトルにしがみつこうとする(傲慢なあるいは、共依存的なナルシシズム~超過敏なナルシシズム)、あるいは、自分のタイトルを脅かそうとする対象に対して、徹底的な攻撃にでたり(ボーダーライン傾向)、自分を脅かしている対象や状況を無かったものにしようとします(否認の傾向)。

この傾向を頭に入れて、ナルシストの幹部たちに対応しなければなりません。

前前回にお話ししたように、傲慢なナルシストのNo.1と共依存的なナルシストのN0.2グループが率いる組織では、次のようなプロセスが進行します。

第1期 限りなき成長への邁進

第2期 No.2ナルシストの台頭と成長の限界

第3期 内部粛清と現実認識の欠如

第4期 リスキーシフト

第5期 組織崩壊

こうしたプロセスの進行を止めることは、非常に難しいと言ってよいでしょう。

例えば、傲慢なナルシズムが、「他者の意見をまったく聞かない」、「自分以外は全て愚かだと思っている」、「自分には限りのない才能があると信じている」、「自分は、特別だと言う意識が強い」、「嫉妬心が異常に強く」、「執拗に相手を攻撃する」、「うろたえると常軌を逸した行動をする」、「他者に対する共感がない」などの傾向にすべて当てはまるレベルであり、しかもその傾向が若年期から顕著に表れているようでしたら、もはや、彼のひきいる組織には、つける薬がありません。必ずと言ってよいほど、No.2グループは、共依存的ナルシストたちで占められるようになります。

このような場合、組織を健全化させるためには、まっとうな内部改革はほぼ不可能です。従って、ストライキを含む組合による要求、一部幹部を含む社員の造反、内部告発、法的手段の適用、外部実力者による圧力などの、かなり過激な手段に頼るしかないでしょう。

ただし、No.1傲慢なナルシズムの程度が激しいものではなく、ある程度の内省ができる場合には、進行を止めることも可能です。

No.1のナルシズムのレベルが、「嫉妬心が異常に強く」、「執拗に相手を攻撃する」、「うろたえると常軌を逸した行動をする」、「他者に対する共感がない」については、それほど顕著ではなく、若年期には、そうした傾向があまり見られなかった場合には、組織の暴走を止める可能性があります。こうした人たちは、思わぬ成功が続いたために、傲慢になり、ナルシスティックになっているだけで、病的なナルシズムとは言えない人たちで、目がさめれば立ち止まり、変革することができます。

このような後発的にナルシズムの傾向が出てきた人たちがひきいる組織も、油断をすると、前述の第1期~第5期のプロセスを踏襲していきます。

以下に示すのは、こうした病的なナルシズムとまでは言えない人がひきいる組織に対して、冷静で現実的な考えを持つN0.2の立場の人の対応です。

崩壊のプロセスの中で第2期以降になると、組織は急速に暴走を始めます。ですから、理想的には、業績も順調で、やることなすことうまくいっている第1期に対応をはじめなければなりません。

その場合、冷静で現実的なNo.2は、早い段階で、No.1に対して、自分の意見をはっきりと言える環境を作っておくことと、自由な意見交換ができる雰囲気を組織内に作っておくことです。

傲慢なナルシストの社長の前では、ほとんどの人たちがすくんでしまいます。しかし、No.2の主要な役目のひとつには、良くない方向に行くようなら社長を諌めるという仕事があるということを忘れてはいけません。

No.2はきちんと正面切って、社長に物を申すことです。社長の内面では、実は、非常におびえており、安心を求めています。

意見を言うと、社長は反発し、怒りだすかもしれません。多くの場合、社長が怒り出しそうになると、No.2は、おびえて下を向いてしまうのですが、それは、逆効果です。No.2のおびえが、社長に伝染し、それが、社長の根源的な恐怖を刺激します。そして、その刺激を覆い隠すかのように、社長が、ますます傲慢化し、怒り狂ってしまうからです。

社長が反発し怒り出した場合、しっかりと顔をあげて、ゆっくりとした呼吸をしてください。そして、社長の表情をよく観察することです。社長の怒りの中には、必ずおびえのサインがあります。目が泳いでいたり、チックがあったり、口元がゆがんでいたりしているのが認められます。

社長のおびえのサインが見つかったら、こちら(No.2)は、より落ち着くことができます。そうすると、その落ち着きが、徐々に社長に伝染していき、社長の怒りが収まってきます。

それと並行して、社長が採用しようとしている案についてのメリット、デメリットをあげ、デメリットが大きいことを論理立てて説明します。

デメリットが明らかになると、社長の傲慢さは、超過敏なモードに変換していきます。

そうなるとしめたものです。社長は、表面上はともかく、内心では、No.2に救いを求める姿勢になっていきます。

この時点で、代替案を説明するとよいでしょう。要は、代替案で不安を解消させるわけです。

こうしたプロセスを繰り返すうちに、社長は、現実的なNo.2を信頼し、知恵袋のように感じるようになります。こうなると、現実的なNo.2は、社内の足場を作ることができます。

その足場を基礎に、第1期のうちに社内に自由な意見交換ができる雰囲気を作っていくことが大切です。

そうした雰囲気が出来上がると、共依存的なナルシストたちも、なかなか出てこれなくなります。そこまでいけば、ひとまず安心です。しかし、その安心がいつまで続くかはわかりません。共依存的ナルシスト達は、現実的なNo.2を引きずり降ろそうと執拗に狙っているからです。ですから、現実的なNo.2は、組織内が健全になっても引き続き、組織が硬直化しないように注意をはらっていかなければなりません。

向後善之

日本トランスパーソナル学会事務局長

ハートコンシェルジュ カウンセラー