おじんカウンセラーのトホホ通信 その17 ナルシズムと組織崩壊(6)

【その17】ナルシズムと組織崩壊 (6)

前回お話しした例は、理想的にうまく進んだ場合です。そうはいかない場合もいっぱいあるでしょう。現実的なNo.2の代替案がうまくいかなかった場合などは、結局、社長は自説に固執することもあるかもしれません。その際に社長には、共依存的なナルシストたちからの入れ知恵があることも少なくありません。

こうなると、社長のナルシズムのレベルが深刻である場合と、ほとんど変わらなくなります。現実的なNo.2の説明に聞く耳を持たず、ボーダーライン化して、徹底的に攻撃を仕掛けてくることもあるでしょう。また、せっかく説明しても、「そんなことは聞いていない」と否認するようになるでしょう。

そして、いつのまにか共依存的な人たちが、No.2グループの主導権を握っていきます。そして、組織の自浄作用は失われます。

こうなると事態は深刻です。

現実的なNo.2は、組織を追い出されるはめに陥るでしょう。そして、No.3以下の人たちは、常にモラルハラスメントの脅威にさらされることになります。

No.1No.2グループもナルシストで埋まってしまったら、ちょっと打つ手はありません。もはや、内部からの組織改革は不可能です。No.3以下の人たちは、せいぜい自分が傷つかないようにするのが関の山です。

少しでも傷つかないためには、以下の対応が必要です。

1)共依存的ナルシストの思考パターン、行動パターンをしっかりと認識しておく。

なんの予備知識もないと、共依存的ナルシストのペースにまんまとはまってしまいます。そうならないためにも、彼らのパターン;

①エネルギッシュな弱者、②0-100の価値観、③くるくる変わる主張、④合理化、⑤否認、⑥投影同一視、⑦カテゴリーエラー、⑧価値観の強要、⑨マッチポンプ的フィードバック、⑩しつこい攻撃、⑪上にはイエスマン、下には傲慢、⑫都合のよい現実しか見ない

を、あらかじめよく認識しておくことです。

認識しておくことで、次に何をするのか、何を目的にしているのかを読むことができますので、精神衛生上、少しは楽になります。

2)罪悪感を受け取らない

共依存的ナルシストの最大の武器は、「相手に罪悪感を投げかけ、コントロールする」ことです。もし、自分の中に罪悪感がわきあがってきたら、それが本当に妥当なのかどうか自問することです。その上で、過度の反省はしないことです。自分に非がないと判断されたら、表面上はともかく、まったく反省しないことです。

3)自分の感情を否定しない

共依存的ナルシストたちと接していると、怒りをはじめとするさまざまな感情が浮かんできます。多くの人が、そうした感情を、ついつい抑圧しようとしてしまうのですが、それは辞めましょう。とは言っても、辞めて感情を爆発させるのではありません。感情をよく見つめることです。そして、それがどんな感情であっても、心の中で、「私は、どんな感情も持つ権利がある」と言ってみてください。怒りも大切な感情ですからね。

感情は、コントロールしませんが、行動は、コントロールすることです。そして、自分にとって楽な行動を選択するようにしてください。

例えば、後後執拗にいやみを言われるのはまっぴらだと思ったら、表面上は穏やかなふりをしておくことです。逆に、いやみを言われようが、自分の意見を言いたいと言うことであれば、辞職を覚悟ではっきり抗議するなどです。

4)恐れるに足らないということを認識すること

ナルシストたちは、自分の思いと違う人を徹底的に攻撃したり説得しようとしたりする傾向があります。前述したように、彼らは、怖そうに見えますが、内面は恐怖と不安でいっぱいです。はっきり「No」と言うと、意外に脆いものです。

彼らが脆いということを認識することで、「No」と言う側は、精神的には少し楽になります。ただし、「No」と言った場合には、その後で、しつこい攻撃を受けたり、嫌な評判を立てられたりすることは、覚悟しなければなりません。

5)ついていけないのが当たり前という認識を持つ

ナルシストたちは、変遷します。意見が180°変わることもめずらしくありません。しかも、その変遷は、自己都合やその時の気分によるものです。

ですから、彼らについていけないのも当然です。間違っても、「自分がいたらなかった」とは思わないことです。

6)評価は、気にしない

「評価は気にしない」とは、言っても、気になるものですが、少なくとも、彼らの下す評価には妥当性がないことを認識することです。首尾一貫しない人が下す評価など、まともなわけがないからです。

7)次を考える

No.1No.2グループもナルシストで埋まってしまったら、組織の外部からの圧力や指導がない限り、変革は期待できません。いつでも組織を抜けられる準備をしておくことが大切です。堂々と逃げることです。

要は、No.1No.2グループもナルシストで埋まってしまったら、No.3以下の人たちは、組織の利益は二の次にして、自分の利益を最優先に考えることです。

しかし、No.1No.2グループもナルシストに占められていても、前回お伝えしたように、かなり過激な形による内部改革もできないわけではありません。ただし、相当リスキーなものになりますが・・。

前回示したように、ストライキを含む組合による要求、一部幹部を含む社員の造反、内部告発、法的手段の適用、外部実力者による圧力などの方法があります。

ただし、この場合、内部改革に失敗したら、自分がその組織を去らねばならない事態に追い込まれる場合もあることを覚悟しなければならないでしょう。

もし、過激な内部改革をするのであれば、計画実行にあたっては、以下を徹底しなければ、成功はおぼつきません。

1)時期をはずさない。

何度かお伝えしているように、ナルシストに支配された組織は、第1期 限りなき成長への邁進→第2No.2ナルシストの台頭と成長の限界→第3期 内部粛清と現実認識の欠如→第4期 リスキーシフト→第5期 組織崩壊 といったプロセスをたどります。

過激な内部改革は、第3期 内部粛清と現実認識の欠如のあたりで、実行するのが最も効果的です。第2No.2ナルシストの台頭と成長の限界の時期では、まだ組織の業績はある程度保たれている段階なので、時期総称ですし、第4期 リスキーシフトの時期になると、内部にはほとんど健全な造反者は残っていないからです。

2)短期決着をめざす。

ナルシストのトップたちは絶大な力を組織内に持ちます。従って、造反ののろしをあげても、長期戦になってしまえば、その力をフルに利用して造反つぶしにかかります。マイルドなところでは、造反者の人事異動ということになりますが、あらゆる手を使って、造反者を退職に追い込むことも少なくありません。また、造反者の中には、トップたちからの甘い言葉に乗っかってしまう人も出てくるでしょう。ですから、内部改革をするのであれば、短期決戦は絶対です。その間に、すべての力を結集し、決着をみなければなりません。

3)トップたちに気づかれない。

計画は、けっしてナルシストのトップたちに気づかれてはいけません。計画中にトップ集団に気づかれたら、一巻の終わりです。トップに気づかれずに、賛同者を集め内部改革の計画するのは、非常に困難なことです。情報漏えいを防ぐためには、短期間に計画し準備することが必要です。それができないと、内部改革は不可能といえます。

4)新体制にすばやく移行する。

あらかじめ、改革後の体制をきちんと考えておくことです。そして、改革実行後、すばやく新体制に移行することが重要です。新体制をきちんと考えていないと、結局、ゆりかえしの圧力を受け、実力のないトップに主導権を握られ、元の木阿弥になってしまいます。

5)新体制に移行後の具体的なプランを準備し、実行する。

改革が成功して、新体制に移行したとしても、安心はできません。最初のうちは、多数の支持を受けるかもしれませんが、実績を出さないと、すぐに支持率は下がります。新体制ができたら、素早く今後の組織運営のプランを提示し、できるだけ早く実行することです。そうでないと、旧体制からの手痛い反発を受け、新体制が短期間に崩壊してしまうことも少なくありません。そうならないためには、内部改革の実行前に、新たな運営プランについては、十分に検討しておき、いつでも実行可能な状態にしておき、新体制への移行後、すばやく実行に移し、短期間のうちに実績を出すことです。

6)撤退するときはすばやく。

こうした改革には、不測の事態がつきものです。そうした事態が起こったとき、柔軟に対応できなければなりません。しかし、どうしても対応できない事態に遭遇する場合もあります。内部改革が上手くいかないと判断されたら、すばやく計画を中止することです。自分たちの作った計画に固執して無理をしてしまうと、結局は内部改革が不成功に終わる可能性が高くなります。人は、自分に都合のよい現実しか見ず、楽観的な予測をしがちです。“過激な”内部改革は、元々綱渡りですから、慎重にことを進めるべきで、ネガティブな要素が増えたらすばやく撤退し、傷が少ないうちに、最初からしきりなおす勇気を持つ必要があります。

7)「負け組」を作らない。

ことがうまく進んで、新体制にスムーズに移行できたとしても、そこで図に乗ってしまってはいけません。よくあるのが、旧体制で活躍していた人たちを「負け組」にしてしまうことです。例えば、旧体制に属している人たちをリストラの対象にしてしまったり、左遷してしまったりすることです。こういうことをしてしまうと、まだ脆弱な新体制に火種を抱えることになりますし、なによりも、そうした傲慢な態度こそが、ナルシスト化への第1歩であるということを知るべきです。ミイラ採りがミイラになってしまうわけです。

トップとNo.2グループは一新するのは、仕方がないとしても、旧体制でNo.3以下で活躍していた多くの人たちは、単に職務に忠実だったわけで、基本的には非難されるべきではありません。彼らが、新体制の中でやる気もって参加しようというのであれば、welcomeな態度で迎え入れることです。

これまで説明した7項目が、“過激な”内部改革の方法ですが、それ以外にも、項目2)で少しふれたように、少しマイルドな長期的な内部改革の方法もあります。

長期的な内部改革は、言ってみれば、大久保利通方式です。大久保利通は、ご存じのとおり、明治維新の立役者のひとりです。彼は、薩摩の下級藩士だったのですが、藩主の父で、実質的に藩の支配者だった島津久光に、たくみに取り入り、信任を得た上で、最終的には、自分が考えていたプランを実行し、明治維新を成功に導きました。久光に取り入る際には、久光の趣味である囲碁を通して、下級藩士であるにもかかわらず、次第に久光の懐に侵入していき、御側役まで出世します。彼は藩内で力を得ていくにつれて、久光を本人も気づかないような形でコントロールして、西郷隆盛、小松帯刀ら、そして長州や土佐の志士たちとともに明治維新を実現してしまったわけです。

つまり、大久保利通方式とは、内部改革をするにあたって、最初は、共依存的なナルシスト的なN0.2を演じ、力を得た後、自分の理想を実現していくと言うやり方です。

この方式の場合、かなり早い時期から準備を始める必要があります。第1期 限りなき成長への邁進の時期にアクションを起こすのがよいでしょう。

これは比較的マイルドな方法ですが、あまりに長い年月がかかるので、改革を目指した本人が、本物のナルシストになってしまうこともありますし、トップからの圧力と部下からの抗議の両方に悩まされることになるでしょうし、かなりの忍耐力と意志の力が必要です。

これまでエラソーに、過激な内部改革の解説をしてきましたが、実は、これらは、私の数々の失敗(しかも非常に小規模な内部改革における失敗)に基づくものです。「あの時、あーすればよかった」、「なんで、こんなことしちゃったんだろー」といった、私の後悔の集積をまとめたものです。

私の経験から言えることは、“過激な”内部改革は、相当な困難を伴い、しかも成功するとは限らないということです。従って、あまりお勧めできる方法ではありません。それよりも、自分本位で、そんな組織から逃げ出してしまった方が、たいていの場合、建設的です。

どうも昨今の日本の社会には、こうしたナルシスティックな組織が蔓延しているように思えます。硬直した窮屈な世の中になっちゃったなーと思います。

しかし、去年から始まった世界的な不況の中で、ナルシスティックな組織は、生き残ってはいけないでしょう。こうした組織には柔軟性が決定的にかけるからです。

そう考えると、今は、大掃除の時期なのかな?

向後善之

日本トランスパーソナル学会事務局長

ハートコンシェルジュ カウンセラー