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書評:惑星の思考 〈9・11〉以後を生きる

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掲載号:Vol.13 No.3

書評:宮内 勝典著
『惑星の思考 〈9・11〉以後を生きる』
(岩波書店刊、2007年)
小林 真行(本学会常任理事)

惑星の思考

 本書は、作家である著者が、2001年から2006年までの間に重ねてきた様々な思索を、断章形式で収録したものである。どのページから読んでも自然に入っていけるような構成になっているが、終わりまで一読してみて、まるで著者と共に世界中を、同時代の地球を一巡りしてきたような気分になった。

 著者の名前を最初に知ったのは、『宇宙的ナンセンスの時代 (新潮文庫)』*(教育社刊)が最初であったと思う。これは今から二十年余り前に出版された本だが、NASAの宇宙飛行士や異星との交信を図る科学者へのインタビューを始めとして、ネイティブアメリカンの聖地やオルタナティブなコミューンでの体験、核シェルターへの訪問や古生物学者との対話など、新旧交えた多様な側面に及ぶ内容で、いたく好奇心をそそられたのを覚えている。アメリカ中を駆け巡って書かれたこれらのルポタージュの記録は、今改めて読んでみてもなお色褪せず新鮮であるが、それらの根底にあるのは、これまでに人類が積み重ねてきた意識の営みに対する深い探求の姿勢であり、また、これから人類が向かおうとしている場所を見定めようとする強い意志であった。中でも特に印象に残ったのは、コミューンで暮らす人々と接した後で書かれた次のような文章である。

 「意識革命の世代が中年となり、もしボブのように無言で暮らしているのだとすれば、いまさらスピリットだなんてと居直ってしまった空騒ぎの時代をひっそりやり過ごし、深い呼吸をしながら暮らしているのだとすれば、あの六〇年代は決して仇花ではなかった。いや、ひそかに結実しつつあるのかもしれない。エジプトのピラミッドで発見された蓮の実が二〇世紀になって開花した例だってあるじゃないか」(『宇宙的ナンセンスの時代』、p. 152)

 本書『惑星の思考』においても、著者の問題意識はどこまでも広がっていく。これまで世界中、数十カ国を旅してきた著者は、本書が書かれている間にも折に触れて東京を離れ、北海道から沖縄、あるいはバングラディッシュやブータン、インドといった国外へと移動を重ねつつ、戦争やテロ、環境問題について声を上げ、民族、歴史、宗教、文学といった人間性の根源にかかわる事象を見据えようとする。ここには、この地球という惑星で起こりつつある現実をどこまでも直視することを自らに課し、そこから立ち上げられた数々の骨太な言葉があちこちに散りばめられている。

 「世界はグローバリゼーションへ向かっているように見えるが、そうした趨勢とは逆のことがひそかに起こりつつある。経済的にはグローバル化へ向かいながら、内実は、民族・宗教へ回帰しようとしている。玄関のドアは開いているが、部屋には鍵がかかっている。日本にも、そんなねじれ現象が見えるはずだ」(p. 13)

 「だが奇妙なことに、イスラム神秘主義スーフィーのような少数派、ある種の極限へ近づいていくと、逆に風通しがよくなってくる。異教を拒んでいるようにみえるイスラム教が、至高性において、ほかの宗教とほとんど変わらないこともわかってくる。……(中略)宗教は「文明の衝突」を引き起こしがちであるが、その内的構造の深層まで、極限まで踏み込んでいけば、逆に共存の可能性が生じてくるのではないか」(p. 45)

 「ものを創造するには神と悪魔のひそかな結託が不可欠だ。正しさ、やさしさ、理路だけでは、決してものは生み出せない。闇の奥でらんらんと目を光らせる虎のような力がなければ創造はできない」(p. 164)

 「言葉の力を回復させたいと思う。地上の争いや、この無惨なほどの荒廃ぶりは、言葉の弱りにも原因がある。すべてが繋がっている。言葉の力を甦らせることは、もう笑いごとではなく、わたしたちすべての急務であると思う」(p. 225)

 そうしたずっしりとくる思索を挟みつつも、ある種の懐かしさや暖かさのようなものが読後に感じられるのは、様々な場所で著者が接してきた日常的な風景の描写から、歴史や文化、人々や自然に対する畏敬の念が伝わってくるせいかもしれない。そこには、光も闇も、聖なるものも俗なるものも、そしてそれらの中間に限りなく存在するグラデーションの数々をも、その全てを受け止めようとする深い眼差しがあるように感じられた。

 広く浅くでもなければ、狭く深くでもない、そんな、一見ありそうで実は中々ない本ではないかと思う。

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*現在は『鷲の羽根を贈る』と改題(三五館刊)

更新日:2008.09.18

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