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特別寄稿 : 北京五輪柔道金メダリスト石井 慧選手のサポート事例

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掲載号:Vol.14 No.1

特別寄稿
北京五輪柔道金メダリスト石井 慧選手のサポート事例
~矛盾して対立していた3つの自分を統合~
平本 あきお(本学会理事)

2006年6月から北京五輪で金メダルをとるまでの2年間、石井 慧選手のメンタルサポートを行いました。

30回を越えるセッションは、大学の道場や千歳烏山にある彼の寮や表参道にある会社の事務所、時にはファミリーレストランや国際電話、そして、北京のホテルなどあらゆる場所で実施してきました。

毎回毎回まったく異なるテーマを扱いましたが、今回、その中の一つのセッションについてご紹介したいと思います。

2008年1月、北京五輪の代表選手に選ばれるためには一つも負けることができない試合が続くとても重要な時期に彼の元を訪れたときのことです。東京世田谷にある国士舘柔道部の寮で、彼はこんな事を言い出しました。

「最近自分の中に3人の自分がいます。

『自分らしい自分』の時以外に、『女々しい自分』や『飼い犬のような自分』が出てくることがあるのです。そして、そのどちらかが出てくるとすべてうまくいかなくなってしまうのです。この足をひっぱる二人の自分をなんとかしたいのです」、と。

「女々しい自分」が出てくると、もっと戦略を考えないと、もっと筋トレしないと、もっとあれもしないと、これもしないと……となり集中できなくなってしまう。

「飼い犬のような自分」が出てくると、もっとちゃんと練習しないといけない、指導者の言う通りにちゃんとしないといけない……となり、精神的にどうしようもなく弱気になってしまう。

つまり、「自分らしい自分」の時は調子がいいけど、それ以外の自分がでてくると、調子が落ちてしまう。この3人の自分が行ったり来たりして、気持ちの起伏がおきてしまい、集中できないと悩んでいたのです。

そこで、3つの矛盾する自分を統合するセッションを行いました。

近くにあった椅子を3つ持ってきて、それぞれに「自分らしい自分」、「めめしい自分」、「飼い犬みたいな自分」と記載した紙を置き、それぞれの場所からその自分になりきって、言い合いをさせました。

「自分らしい自分」になりきって、

「……日本でもない、欧州でもない、自分の柔道しろ!」とか、

「めめしい自分」になりきって、

「……あれもやらないと、これもやらないと……」とか、

「飼い犬みたいな自分」になりきって、

「……言われた通りにしないと……」とか。

そして、ぐるぐる何周もして充分に言い合いをさせた後に、少し離れたところに移動してもらい、

「一人の人間が、あんなふうに、お互い言い合ってるけど、どう見える?」

と聞くと、彼はこういいました。

「……笑えますね……(笑)」

そして、さらにこう聞きました。

「『めめしい自分』と『飼い犬のような自分』、この2つの自分がいてくれて助かっている部分があるとしたらどんなこと?」

すると彼はいろいろ話しはじめて、最終的には

「『女々しい自分』は、実は戦略を練って緻密に相手を研究している自分で、『したたかな自分』だと思います!

『飼い犬の自分』は、実は何を言われてもあきらめない、どんなことがあってもコツコツ努力を続けられる『辛抱強い自分』です!」

というのです。

そしてさらに「自分らしい自分」も「なりふり構わない自分」という風にとらえなおしました。

 「女々しい自分」 → 「したたかな自分」

 「飼い犬の自分」 → 「辛抱強い自分」

 「自分らしい自分」 → 「なりふり構わない自分」

と見方が変わり、矛盾した対立がなくなりました。

彼を中心にして私とアシスタントが、彼の周りの3方向から同時に、新たな3つの自分が言いそうな言葉を投げかけます。

なりふり構わない自分:「俺が石井だ。日本の柔道でもヨーロッパの柔道でもない俺の柔道をするだけだー!」

したたかな自分:「相手を緻密に計算するんだ。すきのない戦略をたてるんだ。」

辛抱強い自分:「なにがあってもあきらめないぞ。コツコツやっていけば絶対に大丈夫だ。」

3人の自分が同時に投げかけてくる言葉を充分に味わったのち、

「どんな気持ち……、どれか、ない方がいい?」と聞くと、

彼は「イヤ!! 全部必要です!!!」といい、

さらに「自分らしい以外、2つ取ろうか!?」と聞くと、

「イヤ!! 全部残してください!!!」と返してきました。

そして、その3人の声を聞けば聞くほど、ムクムクと元気に、表情が明るく、体全身にエネルギーがみなぎってくるのがありありと伝わってきました。

「なりふりかまわず、したたかで、しんぼう強い自分」

石井選手は「これ、全部大事だ」というんです。

どれも自分であり、「勝つ」ためには必要だと。

そしてネガティブな自分は、消えていました。

そのセッションの後、彼は海外の大会でも一回も負けることなく試合に勝ち続け、代表選考の最後の大会となる全日本選手権に挑み、そこでも見事優勝し、大方の予想を覆し北京代表の座を手に入れたのです。そしてその後は皆さんもご存知のことと思いますが、北京本番でもすばらしい柔道をして金メダリストとなったわけです。

なりふりかまわずガンガン攻める時、したたかに計算してポイントを守りきって勝ちにこだわった時、辛抱強さが築きあげてくれた無尽蔵のスタミナで相手を圧倒した最後の2分間。

北京五輪の石井慧選手の柔道は、統合された3つの自分が見事に本領を発揮した大会だったといえるでしょう。

更新日:2009.03.15
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