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西光 義敝(さいこう・ぎしょう)先生との思い出

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掲載号:Vol.11 No.4

西光 義敝(さいこう・ぎしょう)先生との思い出
辰巳 裕介(明治大学)

10年前に伊豆で行われたトランスパーソナル学会は大盛況だったという。そして、そのときに行われた西光義敝先生の「仏教カウンセリング」に関する講演は、とてもすばらしいものだったと聞いている。「そのときの感動をもう一度」ということで、教え子という立場で僭越ながら、在りし日の先生との思い出について、ここに書かせていただけることになった。西光先生が残した仕事について少しでも思い出していただけることを、また初めての方には関心を持っていただけることを期待しながら、話を進めたいと思う。

 先生とは龍谷大学で開講されていた「仏教カウンセリング」という授業で出会った。全国各地から講演を依頼される先生であるが、このときの履修者はたったの4人。そして「胃がんのためにひょろひょろ」で、 70 歳後半という年齢にも関わらず、先生は奈良の山奥から琵琶湖のほとりまで毎週やってきたのだった。でも、僕らは遠慮なく先生に突っ込む。お会いされた方はわかると思うが、先生はいったんしゃべり出すとなかなか止まらない。「学会発表で質問しはじめると止まらなくなり、結果、発表者よりも多くしゃべった」というエピソードもあるくらい、本当におしゃべりなのだ。だから僕らはこのフレーズをよく使った。

 「先生しゃべりすぎやわ。いい加減だまってや! 僕らにもしゃべらせてや!」

 普通なら怒るところかもしれない。だが、先生は一瞬止まってはぱっと顔をあげて、こういうのだった。

 「あー、すんません、すんません。確かにそうですな。で、なんですか?」

 そうやって先生は耳を傾けてくれる。でもそれは「気さくに」ではない。僕らのような初学者な学生であっても真剣に聞く。少しでも「面白い」と思ったら挑戦状を叩きつけてくる。だから授業はレジメ通りに進むことがまずなく、ただひたすら問いを立てては、それについて考えを突きつめていく形をとったのだった。

 そんな先生の学者としての仕事は、「仏教とカウンセリングの融合」だったように思う。そして、その延長線上に「仏教とトランスパーソナル心理療法の接点」というテーマがあった。手元に残っていた講義ノートには、次の2つの問いが書かれていた。(1)オーラや魂、スピリチュアルなどがもてはやされ、癒しを求める人が多いにも関わらず、なぜ古くからそれらを学問としても取り扱ってきた仏教が無視されるのか。(2)「抜苦与楽」を礎とする仏教が、なぜ苦悩を克服していくことを援助するカウンセリングと区別されるのか。

 西光先生は 2004 年に亡くなったのだが、先にあげた状況は若干ながら変化しつつあるように思われる。今回の学会大会で講演された玄侑 宗久先生、そして上田 紀行先生の話もそうだが、少なくとも仏教が「無視」されるという状況はなくなりつつある。しかし、「仏教とトランスパーソナル心理療法の接点」に関する研究はどうか。少なくともトランスパーソナル学会ではほとんど見かけない。

 先生自身は本業の住職を勤めながら、ワークショップや講演会を数多くこなし、仏教とトランスパーソナル心理療法の接点をより多くの人に知ってもらおうと尽力した。けれど、仏教の研究はケン・ウィルバーや『禅セラピー』で有名なイギリス人で仏教カウンセラーのキャロライン・ブレイジャーの方が熱心であると考えていた。先生は彼らの理論を賞賛しながらも、「西洋人の方が仏教をよく知っている」と、仏教に親しいはずの私たちが西洋にばかり目を向けていることをとても悲しんでいた。

 先生がしきりに「ブレイジャー」と言っていたら、なんとそのブレイジャーの方から「西光先生に会って、信心の話がしたい」と申し出があり、公開対談という形でそれが実現した。その対談はとても深いものとなったそうだ。しかし、会の終了後、先生に異変があった。なんと、会場の付近にある信号機の前で身体が動かなくなったのだ。

 この話を聞いたとき、先生が元気だったころに聞いた質問を思い出した。「先生、もう歳なんだから、隠遁生活に入って本や論文を書いてくださいよ」。気軽に言ったはずなのに、先生は一瞬止まってぱっと顔を上げるいつものしぐさで、でも私の顔をじっと見て、一息でこう言った。

 「書きたいけど、時間がないんですわ。だから意欲のある人たちに種をまいて歩いてるんです。そうや、あんたはトランスパーソナルに興味あるんやろ? やったら、ちょっとでもいいから引き継いでくれへんか?」

 その対談の2ヶ月後、先生は逝去した。

 私がもらったその種はどこにしまったのだろうか。そろそろ探し出して、植え始めなければいけない気がしている。

*西光 義敝先生の研究は「Dharma-based Person-centered Approach」として引き継がれている。関連書籍や研究会の情報は次のサイトに詳しい。今回紹介したキャロライン・ブレイジャーとの対談もDVD化されているのでぜひご覧ください。URL:http://dpa.client.jp/

更新日:2005.12.18
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