死と向き合って生きるスピリチュアリティ
橋爪 謙一郎
当学会常任理事

2011年は、日本の大震災、原発事故を初めとして、我々日本人にとって、「あたりまえの日常」が継続すること自体が、その根底から音を立てて揺らぎ、崩れた一年だった。あまりにも大きな喪失体験であったため、被災をした方々の中には、現状に蓋をして、耐え、気持の整理の先送りをせざるを得ない人も少なくない。メディアなどを通じて、「絆」などのキーワードが並び、自分の感情や思いに向き合うことよりも、「前向きに生きる」事を思い込まされるような、状況が未だに続いています。支援をする側も、自分の専門知識や理論、経験が何の意味もないようにすら思え、何も役に立たないと無力感に悩まされた人も少なくないはずです。自らが望んだわけでもないのに、当たり前だと感じていた「日常」を変えざるを得なく、「個」を見直さざるを得なくなった時に、トランスパーソナルの視座は、重要性を増していると感じています。

2011年3月13日、岩手県災害対策本部にいる救急救命医の友人から「至急連絡が欲しい」というメールが入りました。様々な場面に遭遇し、救急医としての経験も十分な友人からのメールには、「余りにも甚大な被害であること。そして、そんな状況下で医師としてできる事の少なさを過酷な状況の中で感じている葛藤」が溢れかえっていました。救える命を救うことを使命としている彼らも、変化を始めています。そんな中で、日本人らしく「死を拒否し、抑圧しやり過ごしながら生きるのではなく」、「死と向き合って生きる」上で、必要な「場」をどのように作り上げてゆくのかを作り上げる必要性は緊急かつ重要な課題となっています。

1998年にジョン・F・ケネディ大学ホリスティックヘルス教育学修士号を取得後、サンフランシスコベイエリアで遺族のグリーフケアを提供する仕組みの構築、運営をしていました。2001年アメリカから帰国し、日本においても、大切な人を喪った家族や友人を支える仕組みを再構築する必要性を強く感じ、その為に必要な教育、ネットワーク作り、啓蒙活動を行ってきました。帰国直後は、人生における苦しみをテーマに取り組んでいると主張する多くの僧侶の方々から、「ご遺族に対するケアなど必要ない」、「自分の檀家の心に問題などない」、「信心していれば、いずれ気持の整理が付いてゆくものだ」と言われる事が多かった。確かに「四苦八苦」という言葉自体仏教用語で、その中には、愛別離苦という「愛する者と別離する苦しみ」と大きな苦しみとして捉えているのだから、本来その苦しみを仏教が救いを提供していたはずである。しかし、現実は、その点から見ると一部の熱心な僧侶を除き、大部分の僧侶は、向き合うことなく、単に葬儀でお経を上げ、戒名を与え、仏教の教えを法話と言う携帯で話をするという役割だけで、日常的に苦しみを抱えている人を支える仏教の本質的な役割を果たしているとはいえない状況です。「苦しみは執着から生まれる」という仏教の教えを、大切な人を亡くした人に執着は良くないと言って、苦しみと向き合うこと自体も執着と位置づけ、「忘れる」事を勧め、必要な支えをどのように提供すればいいか分からないため、遺族は、孤立して、自分の力で向き合うことを強いられてきたのです。「死と向き合うことが出来る場」を作り上げる変革を起こそうと取り組んできた中で、構築してきた「グリーフサポート」についてお話をしてゆきます。心理療法としての「グリーフケア」ではなく、ソウルワーク、魂の探究としての、成長のきっかけを得るための「グリーフサポート」とは何か。そして、グリーフサポートを通じて、どのようなきっかけを遺族が必要としているのかについて、アメリカのグリーフケアの第1人者であるアラン・D・ウォルフェルト博士の提唱する「10のタッチストーン」を日本人に合わせて発展させたワークについてお話します。

「10のタッチストーン」は、喪失体験をした人が、グリーフワークに安心して取り組む助けとなります。10のタッチストーンは、ご遺族が「身体的」、「精神的」、「認知的」、「社会的」、そして「全人的」に、死別体験やグリーフとの折り合いをつけてゆくために必要なものを網羅しています。グリーフに伴って漏れ出てくる感情や思いは、あまりにも激しいもので、理解できない、あるいは、耐える事さえ難しいものだと、今まで出会った多くのご遺族は教えてくれました。このタッチストーンを活用する事によって、ご遺族は、自分がおかしくない事に気付くこともできるし、迷ってしまった時には戻る場所を得ることができるのです。このタッチストーンを熟知する事によって、ご遺族一人一人に合わせた支援を提供できる様になるはずです。このような取り組みが、大切な人やモノを喪失した人が、悲しみに向き合い、自分らしく生きる力を得、成長できるきっかけを作る一助になることを心から願っています。