関連書籍紹介
西村佳哲(2011)『かかわり方のまなび方』筑摩書房
小林真行(本学会常任理事)

セミナーやワークショップのような、他の人たちとのかかわりあいを通じた学びの場に関心をもっている人ならば、それが場の力やリーダーの姿勢によって大きく左右されるものであることに気づいていると思います。本書には、プランニング・ディレクターとしてそうした現場に多く携わってきた経験をもつ著者が、さまざまな分野でファシリテーター的な役割を果たしている人々へのインタビューを重ねながら、かかわり方や学びのあり方について探求を深めていく過程が収められています。

 本書の魅力は何といっても、中野 民夫さんや橋本 邦彦さんをはじめとする、各界で活躍中の現役のファシリテーターたちが語った実感のこもった言葉にたくさん触れることができる点にあると思います。普段の取り組みの中で感じているもどかしさや戸惑いなどについて正直に語っている人もいて、それぞれのスタンスの違いや共通点も含め、人にかかわっていくということの奥深さや難しさが生き生きと伝わってきます。こうした意味では、著者自身がインタビューの相手とどうかかわってきたかに関する記録にもなっていると言えるかもしれません。

 もう一つ本書の特徴を挙げるとすれば、ワークショップそのものの歴史と潮流について概観している点でしょう。ジョン・デューイの教育哲学を発祥とし、エンカウンター・グループやヒューマン・ポテンシャル・ムーブメントなどを通じて発展してきたワークショップは、世界中でさまざまな広がりを見せてきました。しかし、そもそもワークショップという言葉自体が何を指しているのかという基本的な点については、あまりはっきりと理解されてこないままだったように思います。著者は、ファクトリーとワークショップとの違いに着目してこう述べています。

ファクトリー(工場)の特性は、「何をつくるか?」があらかじめ決まっている点にある。そしてそれを効率よく、高精度に、間違いなく生産するためのラインが設計され稼動する。一方ワークショップ(工房)では、「何を作るか?」はあらかじめ決まっていない。少なくとも設計図のたぐいはない。そこには素材があり、道具があり、「少しでもいいものをつくりたい」意欲を持つ職工が集って、互いに影響を与えながら働く。そしてつくり出すべき「なにか」が、その場で模索されてゆく。(本書p. 168)

あらかじめ約束された一定の効能や感動や解放を目的とするのではなく、試行錯誤や失敗を含めた創造的なプロセスに入っていくことこそがワークショップの目的であり、本書は、こうしたある種職人的なプロセスに携わることにおける方法や意味について深く掘り下げようとする試みなのです。さらに、海外だけでなく日本におけるワークショップの歴史や展望についても触れられており、その時々の時代背景に関連した興味深い考察がなされています。

また、ファシリテーションの技法自体は必ずしも人の主体性を尊重した上で用いられているわけでなく、操作的・煽動的な目的にも用いることができるという著者の指摘は、悪質な商業セミナーや宗教団体などの問題を考える上でも重要な点ではないかと思いました。本書の後半で、カール・ロジャーズのパーソン・センタード・アプローチに触れながら、著者はこんなふうに書いています。

取り柄や力を他人に“引き出される”のは、喜びではあると思う。潜在的な自分の可能性を引き出してくれる人や場との出会いは、多くの人にとって嬉しいものだろう。でも引き出される喜びより、“溢れ出す”喜びのほうが、より始原的で大きな動きだ。(本書p. 259)

そして、30代前半の「人の力をどう引き出すか?」という問いをあらためて見直してみると、意識が「人」より「引き出す」ほうに偏っていたことに気づく。もし仮にかかわられる側だったとして、自分のことをよく見ようともしないで、「引き出し」にかかわってくる人間がいたら、どんな気分だろう。僕は嫌です。エネルギーを解放したいし、本領も発揮したい。だから上手く引き出してくれる人は魅力的だけど、勝手にはされたくないし、相手の都合で引き出されるなんてもってのほかだ。(本書p. 263)

人とのかかわり方を考える上で、こうした姿勢こそが何よりも大切なものなのではないかと感じました。人とのかかわり方というテーマのみならず、教育の問題一般に興味をもっている方々にも広くお勧めしたい一冊です。