自著紹介

『ソマティック心理学』
(春秋社)
久保 隆司
(本学会常任理事)

ソマティック心理学
ソマティック心理学

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久保 隆司
春秋社

ソマティック心理学の世界にようこそ!

『ソマティック心理学』という言葉は、多くの人にとって耳慣れないものかもしれません。日本語に直訳すると「身体心理学」となります。ソマティック心理学は、自分の心と身体とのつながりを通して、また人と人との肌の触れ合いを通して、困難な時代を共に生き抜いていくための心理学であり、その実践としての心理療法なのです。その流れを少しでも知ってもらうことを願って、タイトルを『ソマティック心理学』としました。
さて、ソマティック心理学といっても、実にさまざまなものがあります。ソマティック心理学とは、一つの特定のアプローチの名称ではなく、心理学のカテゴリーの名称だからです。しかしながら、それらは、基本的に「心身一元論」、「身心一如」的な立場をとる点で共通しています。身体と心理・精神は、不断に相互的なコミュニケーションを行い、影響を与え合っているという基本認識です。とはいえ、幅広い分野でもあるので、どこに力点を置いて探求・研究するのかは、それぞれの学派、研究者によって異なってきます。非常に神経生理学的、生物学的な「科学的」な立場を重視するものから、ボディ・エモーション・マインド・スピリットの統合やサトル・エネルギー(生命・霊的エネルギー)などに力点をおく「ニューエイジ的」または「スピリチュアル」なものまで、さまざまです。
歴史的には、フロイトの弟子の精神分析医W.ライヒの貢献が大きく、「ソマティック心理学の父」と呼ばれることもあります。しかし、現代のソマティック心理学は、たとえば、ユング心理学、ゲシュタルト療法、ダンス・ムーヴメント療法など、さまざまな流れも含めて分野を構成しているといえます。特に1990年代以降、従来から心理と身体、生物学との関係性を探求していたソマティック心理学は、アタッチメント理論や、PTSD・トラウマの研究などを介して、最新の神経生理学・脳科学などの現代科学との相性がよいことも明らかとなってきました。以後、現在に至るまで、研究室での研究と心理セッション・ルームでの実践とのコラボレーションが大きな潮流・課題となっています。
ソマティック心理学という立場は、ある程度の統合的な枠組みを提供できる学問として、果たせる役割とその可能性を持っていると考えます。もちろん、ソマティック心理学は万能ではありません。しかしながら、心身の分離状態から、心身の統合段階の領域に対して極めて有効な心理学・心理療法であり、時代がまさに求めている心理学であると確信しています。そしてこの領域へのワークの対象となるのは、現在生きている人(=身体を持っている人)のほとんどなのです。これが、ソマティック心理学が重要であり、必要である根本的な理由です。
本書の大きな目的は、ソマティック心理学という、多くの人にとっては新しい、ホリスティックで学際的な概念・領域・枠組みを知ってもらうことです。そのため、ソマティック心理学を限定するのではなく、その隣接分野についての基礎も幅広く知ってもらおうという欲張った意図を持っています。これは、広く浅い内容になりがちなことと裏腹の危険性もあるのですが、その場合はカタログ的な機能を持っていると、好意的に受けとめていただければ幸いです。
本書では、ソマティック心理学に関わるさまざまなトピックを扱っていきます。臨床心理学、実験心理学、発達心理学、脳科学、神経生理学、精神免疫学、意識学、哲学、文化人類学、動物行動学、ボディワーク(ソマティックス)、ダンス・ムーヴメント、トラウマとPTSD、トランスパーソナル心理学、インテグラル理論、マインドフルネス、仏教、その他スピリチュアルに関わる部分なども含みます。ソマティック心理学の世界で概ね共有されている話題から個人的に関心が高い話題まで、幅広く触れることで、未来へと開かれたとしてのソマティック心理学の特質を、多くの方と共有できることを目指しました。

どこからでも読み始めてください。そして、特に興味を感じられたところはじっくり読んでください。さらに、本書を手がかりに、参考図書やインターネットなどを通じて、ご自身の手と足で探求を進めていただければ幸いです。今後、より多くの人が、ソマティック心理学についての認知と理解を深められることを願っています。

私たちは誰であっても、身体というこの世に一つしかないオーダーメイドの地図を持っています。さあ、本書を手にとって、わくわくする宝物探しの旅に出かけようではありませんか!