【その39】パワハラの実態・・その3

ちょいと、補足しますが、D課長がなぜパワハラなのか解説しましょう。

D課長の言動は、一貫性がありません。自分がプロジェクトの批判をしていたにも関わらず、A氏が同様な理論を展開し始めると、今度はA氏を徹底攻撃し始めています。これは、まったく矛盾した言動です。しかも、「無礼講だ」という言葉に従って、A氏は自説を述べたわけですから、A氏には、非難されるいわれはありません。おそらく、D課長は、A氏のプロジェクト批判が、D課長の許容する範囲を超えたのでしょうが、火をつけたのはD課長であり、そうした火がなければ、A氏は、管理職の前でプロジェクトの批判をするはずはないのです。

D課長にすれば、A氏はD課長の気持ちを推し量りながら、「無礼講だ」と言われても、「いや、私には、上の方々の考えにどうこういう立場にありません。我々若いものは、上の方から言われたことをやるだけです」などと、控えめに答えるのが理想なのでしょう。

しかし、自分の思い通りに他人が動くはずという思いこみは、ハラサー(ハラスメントをする人)の特徴です。自分の思いなどというものは、他人にはわからないのが当たり前です。思いを分かってもらおうとしたら、本来は、きちんと説明しなければならないのです。ハラサーは、相手が自分の感覚を理解し、自分の気持ちよいように行動をとるだろうと言う都合のよい予測があります。しかし、それは自己中心的で傲慢な予測です。

A氏の言葉の中に、なにかD課長の気に障ることがあったのでしょうが、その根拠は、明確には示されていません。彼は、自分の思い通りに発言しなかったことに腹を立てているのでしょう。ですから、D課長は、自分の怒りの根拠を、論理的に明確に示すことができなかったのです。その代り、「生意気だ」、「10年早い」など、本来の論旨と違う精神論のカテゴリーに話をすり替えています。これは、カテゴリーエラーと言われるもので、ハラサー(ハラスメントをする人)が、よく使う手口です。

また、D課長の止まらない説教もハラサーの特徴です。D課長は、最初の焼き鳥屋での30分の説教だけではなく、最後にA氏と会ったスナックでも、C課長からの静止があったのにもかかわらず、すきを見てはA氏の攻撃をしています。ハラサーは、自分の怒りを抑えることができないのです。

そして、A氏の言い分を、D課長はまったく聞こうとしていません。ハラサーにとっては、自分の意見だけが絶対なのです。しかし、自分より強い立場の人に対しては、そうした傲慢なふるまいは表に出さず、むしろ従順です。「もし言ったら、お前がやったことをおれは、会社に話すぞ」というC課長の言葉に従う姿勢は、C課長の発言の背景にある会社という存在を恐れたからに他ありません。

では、A氏はどうすればよかったかと言うと、D課長のハラスメントを収めるという観点では、どうしようもないのです。「すみませんでした。言いすぎでした」と言ったところで、D課長の攻撃は収まりません。「なんで、君は、自分の言葉を、そうやってすぐに翻すんだ。そういうところが、最近の若い奴は根性がないんだよ」などとなじられるのが関の山です。

A氏のできることは、D課長の言葉をまともに受け取らないことです。要は、D課長のようなハラサーの言葉に巻き込まれず、D課長の理論に従って自分を批判しないことです。まあ、黙っているけれど、納得はしないというのがとりあえず妥当な態度でしょう。

A氏のまずかったのは、最後にD課長と会ったスナックで、早く退散しなかったことです。ハラサーは、相手が降伏するまで、あきらめないので、さっさと退散してしまった方が得なのです。

しかし、向こうっ気の強いA氏は、退散する代わりに、D課長を睨みつけてしまいました。これは決定的なミスと言えます。相手を見るのは、問題ありません。ただし、ハラサーの怒りモードに巻き込まれて、ハラサーと対決する姿勢で睨みつけるのはいけません。A氏は、睨みつけた時、すでに喧嘩モードになっていました。ハラサーを見るのなら、冷静に相手を見ることです。これは、なかなか難しいんです。自分の呼吸に注意を向け、自分の中に怒りがあっても、その怒りをじっと見つめる落ち着きが必要です。A氏の場合、自分の怒りに飲み込まれていました。そして、そのとき、「やるんなら、やるぞ」という気持ちになってしまっていたのです。そうなると、ハラサーの次のアクションは、キレる以外ないのです。

ハラサーに対しては、じっくり呼吸を落ち着けて、ただ全体を眺めるような形で、相手を見るのがよいです。下を向いていると不安・恐怖が強くなりがちです。逆に、顔をあげて、全体を見ることで、恐怖のレベルは下がります。しかし、睨みつけてしまうと、双方の怒りがエスカレートしますので注意してください。落ち着いてハラサーを見つめ、自分のペースをくずさなければ、ハラスメントのエネルギーは次第に弱まってきます。

余談ですが、呼吸を落ち着けて相手を見るというのは、熊に出会った時の最も良い対応法なのだそうです。そうすると、熊は人間の視線から目をそらし、去っていくのだそうです。これは、最近、北海道旅行に行った時、地元の人から聞きました。

熊が去っていくのですから、ハラサーは、その場にいたたまれなくなるのは、当たり前と言えば、当たり前です。

A氏は、怒っているのは当然としても、「やるんならやるぞ」という考えは避けるべきだったのです。怒りがあっても戦わない姿勢が必要なのです。

ハラサーの攻撃を受けた時、C課長のような、公平で冷静で、毅然とした態度をとれる度胸のある人に相談できると、いいのですが・・。そういう人が必ずいるわけではありません。

ただ、ハラサーは、やがて必ず別の人にも同じようなハラスメントをしますし、過去にも同じような事件を起こしていることでしょう。そうした事実は、やがて隠しようが無くなります。いつか、ハラサーには、よくない評判が立ち始めます。ハラサーは、やがて失脚するのです。

もし、うまく失脚せず、いつまでもハラスメントが止まらないようだったら、パワハラ相談室に報告することです。その際、できるだけ多くの賛同者がいるのが理想的です。また、ハラスメントの具体的な内容を記録しておくこともいいでしょう。

そして、ときには、パワハラ相談室の責任者がハラサーの場合があります。その場合は、その上の人に訴えるしかありません。しかし、社長自体がハラサーの場合、これは、社内では打つ手がありません。その場合、戦うのなら、法的手段に訴えるか、そんな会社には、こちらから見切りをつける決断が必要になります。

パワハラとは、やっかいなものです。

向後善之

日本トランスパーソナル学会 常任理事 事務局長

ハートコンシェルジュ カウンセラー