おじんカウンセラーのとほほ通信 その30 どーも違和感のある言葉

【その30】どーも違和感のある言葉

カウンセリングの業界で使われる言葉で、どーも違和感のある言葉があるんです。

まあ、私はひねくれものだから・・。

例えば、「癒し」です。わかるんですけどね。あんまり「癒し、癒し」って言われると、もし、私がクライアントだったら反発しちゃうかもなんて思ってしまいます。「私は、癒していただかなくてもけっこうですっ!問題が解決すりゃぁいいんですっ!」みたいなこと言ってしまうかもしれません。「癒し」を強要されているみたいで嫌になってしまうかもしれません。それに、そもそも、カウンセリングというのは、自分に向き合うというプロセスがあるわけで、少なくとも途中経過では「苦しさ」もあると思います。気持ちよく癒される目的だったら、温泉やエステに行った方が「癒される」ようにも思うのですが・・。さらに言えば、「癒される」というよりも「すっきりする」っていう解決もあるような気もしますしね。

「癒し」と同じく、普通は動詞で使われるのに名詞化されているのが、「気付き」ってやつですね。「どんなことに気付きましたか?」って言うのが普通だと思うのですが、「どんな『気付き』がありましたか?」なんて言われると、ぞっとしちゃう。なんだか、大仰な「気付き」を述べなきゃいけないって気持ちになっちゃいます。

「ちょっと気分が楽になりました」なんてことは、あまりに小さいことで、「気付き」というものに当てはまらないんじゃないかなんて考えてしまうかもしれません。しかし、そういう小さな「気付き」も大事なんです。・・おっと、「気付き」って使ってしまった!

それから、「共感」っていうのもねぇ。普通は使わないですよね。共感とは、「他人の気持ちを自分のことのように感じること」と定義されます。そのへんの感覚は、日々の生活の中でも感じることなのですが、なんとなく「共感」って言われると、なんだか特別なことに感じられてしまいます。

「共感」はカウンセリングの専売特許じゃないわけで・・。

また、カウンセリングは「共感」だけでは成り立たない場合も少なくないんですよ。「直面化(コンフロンテーション)」と言って、これまで避けていた自分のテーマに直面するプロセスも重要なんです。そして、直面化の後にやっと共感が生まれるなんてこともいっぱいありますからね。

私がクライアントだとして、カウンセラーに怒りを感じていたとして、ありったけの罵詈雑言、例えば「あんたは、最低のカウンセラーだ!」をぶつけたとき、カウンセラーが「あなたの怒りももっともですね」なんて共感のふりをされたらたまらないです。共感(にせ共感)の乱発はやめてほしいと思うでしょう。

「傾聴」っていうのも、どうも好きになれない。

要は、「よく聴く」ってことでしょ?それを、「傾聴」なんて言っちゃうと、なんだか特別なカウンセリングテクニックみたいに聞こえてしまいます。普通のことなんですよ。相手の話をちゃんと聴こうと思ったら、みんな自然に「傾聴」になるんです。

「転移」、「逆転移」というのも、うさんくさい。

転移とは、クライアントがカウンセラーに感じる感情や思考などのあらゆる反応、逆転移とは、その逆でカウンセラーがクライアントに対して起こす反応のことを示します。ちなみに、転移、逆転移にはさまざまな定義があって、ここで示したのは、実存主義セラピーの大御所ヤーロムが主張している定義です。

この「転移」、「逆転移」はだいたい、「クライアントはカウンセラーに転移を起こしていますね」とか、「それは、カウンセラーの逆転移ですね」などと使われます。・・何を言っているのかわからない・・。そういうことを言う方は、たいていの場合、恋愛感情のことを指しているみたいですけど、そうだったら、そう言えばいい・・。

さらに言えば、病名も嫌いですね。「双極性障害ですね」とか、「DID(解離性同一性障害)の典型的な症状ですね」とか、「ADHDですね」なんて、もし言われたら、なんとなく嫌だな。病名じゃないけど、「ACですね」とか「共依存ですね」も嫌ですね。私は、どうもレッテルを貼られるのが嫌いなんです。

「そんなわけのわからないレッテルで、私のことなんかわかるもんか!」って気持ちになってしまいそうです。

うつだろうが、不安だろうが、その根底にある状況を表すことはできません。同じトラウマを受けたって、ある人はうつになるだろうし、ある人は不安になるということです。薬を選ぶ精神科医にとっては必要な区別かもしれませんが、カウンセラーにはあんまり必要ありません。

器質的な問題がかかわるもの、例えば「自閉症」とかは、うつや不安と同列にはできないので、ある程度仕方がないのですが、レッテルを貼るというのは、どうも好きになれないですねぇ。

もちろん、病名を聞いて安心する人もいますから、そういう人にはお伝えした方がいいですけどね。例えば、「なんだかわからないけどやる気がない」という人に「うつ」という病名を伝えた方が、本人が納得するし安心するみたいな場合ですね。

カウンセラーが一般向けのセミナーをやる時に、「癒し」だとか「気付き」だとか「共感」だとか「気付き」などの専門用語?は、必要最小限にした方がよいと思います。また、病名を説明する時、器質的な原因のもの以外は、「これは便宜上のもので、病名自体にはあまり意味がない」ということを伝える必要があるでしょうね。

ある日、事例研究会というものに参加したら、参加していたどこかの先生が発表者に対して、「その事例ではロールはやらなかったのですか?」と聞いていました。私は、「ロール」とは、「ロールプレイ」のことかと思ったのですが、それは、とんでもない間違いで、「ロール」とは、「ロールシャッハテスト(心理テストの一種)」のことなのだそうです。勝手に略さないでよ!!って言いたいです。

専門用語の羅列は、なんか、現実に起こっていることと遊離してしまっているような気がしますし、カウンセラー側からの「私、その筋の専門家です」というえらそーな感じを受ける人もいるかもしれません。だいたいわざわざそんな言葉を使わなくったって説明は可能ですし、そっちの方がわかりやすい。

私は、もっと普通の言葉でカウンセリングを伝えたいと思っています。

(第30回おわり)

向後善之

日本トランスパーソナル学会 事務局長

ハートコンシェルジュ カウンセラー