おじんカウンセラーのトホホ通信 その14 ナルシズムと組織崩壊(3)

【その14】ナルシズムと組織(3)

今回は、最悪の組み合わせである、傲慢なナルシストのワンマン社長と、共依存的なナルシストのNo.2の組織の典型的な崩壊の過程をもうちょっと詳しく見ていきましょう。

第1期 限りなき成長への邁進。
最初は、傲慢なナルシストの妄想的なアイデアは、メンバー達には、夢のあるポジティブな考えに写り、彼らに希望を与えるものとなります。また、ナルシストは、強い説得力を持ちますから、最初は、ちょっと妄想的だと思ったアイデアも、だんだん現実味をおびて見えてくることになります。

そして、時代の変化などのなんらかのきっかけで、そうしたアイデアが、脚光をあびることになると、組織の快進撃が始まります。波に乗っかった状態で、かなりきわどい企画も含め、打つ手打つ手が、うまくいきます。この辺までは、社長と社員の目標が一致し、組織全体としては、希望に満ちた時代となります。ここまでは、ナルシストでなくても現実的な考えを持った社長の下でも起こることです。

こうした状態がある程度続くと、社長のカリスマ性は、絶対的なものになっていきます。同時に、社長の限りない成功への思いは、いっそう強固なものになっていき、危ない企画に待ったをかける社員は、次第に隅に追いやられていきます。これは、ナルシストの傾向のひとつである、「都合の悪い現実は見ない」が表れていることを示しますが、組織全体の快進撃の前では、そうした側面は隠れてしまいます。

第2期 No.2ナルシストの台頭と成長の限界
組織が大きくなっていくに従って、社長は、業務全体を見ることができなくなっていきます。そうなると台頭してくるのが、共依存的なナルシストたちです。傲慢なナルシストの社長は、自分の意見に異を唱える社員を好みませんから、必然的にN0.2グループには、共依存的なナルシストたちが選ばれます。

No.2の彼らは、イエスマンですから、社長の言う事にはけっして逆らいませんし、意見も言いません。彼らは、「上にはイエスマン、下には傲慢」ですから、無理な要求であっても、社長の要求を120%かなえようとします。その結果、部下には過酷な業務が命じられ、深夜残業は当たり前になってきます。

まだ、社長に諫言する気骨のあるNo.2は存在しますが、社長及び、その他の共依存的なNo.2の幹部たちからうとまれるようになります。

この頃になると、一般の社員は、社長が遠くなってしまったような感覚を持つようになります。

共依存的なナルシストのN0.2は、必然的に同じ傾向(イエスマン傾向)を持つ部下を求めます。社内には、イエスマンしか出世できないといった雰囲気ができてきます。そうでない人たちは、耐えしのぶしかなくなります。

こうして、全社一丸だった社内の空気に、微妙に不協和音が流れるようになってきます。その結果もあって会社の業績の成長スピードが落ちてきて、ついには、業績は停滞し、さらには悪化傾向になってくるかもしれません。

気骨のあるNo.2は、業績停滞あるいは、悪化の責任を負わされ、閑職に追いやられます。敵のいなくなった共依存的なNo.2は、「がんばれば業績は回復する」的な価値観を社員に強要するようになります。こうして、共依存的なナルシストたちの権力が強くなっていきます。

第3期 内部粛清と現実認識の欠如
共依存的なナルシストたちが権力を握っても、彼らには、現実的な視野に立ったアイデアや独創的なアイデアはありませんから、業績は回復しません。また、彼らの主張は、くるくる変わりますから、社員はとまどい、組織は迷走し始めます。

彼らは、「カテゴリーエラー」的に、業績の悪化を社員の頑張りが足りないといった非現実的な理論にすり替えます。もちろん社員たちからは不満が出ますが、そうした不満は、「会社の危機にみんながんばろうとしているんだ」との理論の下に押し込まれてしまいます。

「なにかおかしくなっているぞ」と感じている社員は、実は現実的な考えを持っているのですが、徹底的な攻撃対象になってしまいます。

現実的な彼らの主張は、共依存的な幹部たちから、「合理化」、「否認」のもとに否定され、「投影同一視」を駆使したいわれのない非難にさらされます。彼らに対する攻撃は執拗なもので、ミスとも言えないようなちょっとしたいきちがいでも針小棒大に宣伝され、「あの社員は、どうもできが悪い」と言った噂を、「マッチポンプ的」に流すようになり、有能な社員を追い込んでいきます。そして、「0-100」の価値観の下、ちょっとでも違う考えを持つ社員たちに対して、モラハラ、パワハラが横行し、社内の空気は、恐怖に支配されます。

社員のモチベーションは下がり、有能な社員は、組織を去ることを考え、実際に去っていく人たちも出てきます。

第4期 リスキーシフト
なにをやっても業績が回復しないので、当然の如く、社長は、N0.2たちを怒鳴りまくります。「お前たち、何やっているんだ」というわけです。共依存的なナルシストのNo.2たちは、自分たちの非を認めることはありませんから、責任を部下たちになすりつけ、社長に報告します。「私たちは、こんなにがんばっているのですが・・」という枕詞で、自分たちを「弱者」あるいは「被害者」の立場に置きます。

こうした状況の中で、モラハラ、パワハラはより過激化し、ついには最後まで残っていた有能な社員たちが会社を去っていくことになります。

社長を含む幹部は、会社の状況悪化に打つ手はなく、その結果、今まで実は存在していたけれども表に出てこなかった恐怖におびえることになります。自分たちがいつ非難の対象になるのかという思いにおびえ、超過敏なナルシズムに転化していきます。

彼らは、実績を上げねばならず、その結果、危ない投資に走ったり、高金利の金を借りたり、不法行為を行ったりし始めます。

こうして、組織はどんどん危ないことに手を染め、リスキーシフトしていきます。

限りない成功にとりつかれている彼らは、それがうまくいかないと「エネルギッシュな弱者」になります。さらに、社会から見捨てられる恐怖が激しい攻撃性に転化するいわゆるボーダーラインパーソナリティ傾向を示すことがあります。組織内外に原因を求め、一部社員に業績不振の責任をおわせ、その社員を徹底的に攻撃したりします。また、社長は、敵とみなした特定の人や組織に対し、理不尽な恨みをいだくようになり、マッチポンプ的フィードバックだけではなく、怪文書を流したり、ネットでの誹謗中傷といったことまですることがあります。No.2たちは、そうした社長の過激な方向性に積極的に協力することになります。

もはや、会社の幹部の中には、地に足のついた現実感覚が無くなってしまいます。

第5期 組織崩壊
幹部が、現実感覚をまったく失った組織は、存続することはできません。違法行為が発覚することもあるでしょうし、借金で首が回らなくなることもあるでしょう。

そして、崩壊が現実に迫ったとき、幹部たちは、自分の財産の確保のみに注意が向けられるようになってきます。ナルシストたちにとっては、会社のことなんかどうでもよいわけです。

こうして組織は崩壊します。
そして、崩壊した後も、彼らは他者に責任をなすりつけようとするでしょう。「あれは、部下が勝手にやったことだ」と。

まあ、これが、傲慢なナルシストのトップと共依存的ナルシストのNo.2のコンビによる組織が崩壊する典型的なプロセスです。

「おれは、ナルシストじゃないから大丈夫!」と思っている社長さんも安心はできません。最初は、まともで現実的な考えを持っていても、思わぬ成功の結果、ナルシスティックな傾向が出てきてしまい、結局同じようなプロセスをたどってしまうことも多々あります。

次回は、こうした組織崩壊が大きな規模で起きた例について考えてみたいと思います。

(第14回おわり)

向後善之

日本トランスパーソナル学会事務局長

ハートコンシェルジュ カウンセラー