おじんカウンセラーのトホホ通信 その12 ナルシズムと組織崩壊(1)

【その12】ナルシズムと組織崩壊(1)

前々回第10回では、「人間はすばらしい」ということをテーマに書いたのですが、今回は、あまりすばらしくない側面について書きたいと思います。

人間のすばらしい行いというものは、個人の自己一致した姿勢から生まれます。前々回お話しした高校生は、退学を決意したとき、自分の行動、思考、感情に全く矛盾がない自己一致した状態でなされたものです。

ところが、自己不一致で、しかもそのことに全く無自覚で内省のない人たちの行動は、美しくありません。

自己不一致な人たちは、要は、自分の頭で考えない状態になっていると言えます。そして、それが集団的に起きると、まともな人たちは排除され、集団は、やがて崩壊していきます。

そして、そうした歪んだ組織の背景には、幹部のナルシスティックな傾向がある場合が少なくありません。

ナルシズムは、自己肥大した傲慢さと特権意識を持ち、そのため、他者は、自分の意思を実現するために存在するかのようなパターンを示します。

具体的には、以下のような傾向があります(「DSM-Ⅳ-TR 精神疾患の分類と診断の手引」医学書院 より引用)。

1)自己の重要性に関する誇大な感覚がある。

2)限りない成功、権力、才気、美しさ、あるいは理想的な愛の空想にとらわれている。

3)自分が“特別”であり、独特であり、他の特別なまたは地位の高い人達に(または施設で)しか理解されない、または、関係があるべきだと信じている。

4)過剰な称賛を求める。

5)特権意識、つまり、特別な取り計らい、または自分の期待に自動的に従うことを理由なく期待する。

6)対人関係で相手を不当に利用する、つまり、自分自身の目的を達成するために他人を利用する。

7)共感の欠如:他人の気持ちおよび欲求を認識しようとしない、または、それに気づこうとしない。

8)しばしば他人に嫉妬する、または他人が自分に嫉妬していると思いこむ。

9)尊大で傲慢な行動、または態度。

このうち5項目以上があてはまると自己愛性パーソナリティ障害と診断される可能性があります。

ナルシズムは、このように非常に傲慢な自己肥大の傾向を示しますが、日本のような相互依存的な社会では、少々異なる形であらわれてくることもあります。日本の社会の中で特徴的なナルシズムの形には、傲慢さを表には出さず、一見謙虚さや利他的な慈悲心をよそおい、また弱者の立場に自らを置きながら、他者をコントロールしようとするタイプも存在します。しかし、その謙虚さや弱者の立場の裏側には、特権意識や傲慢さが存在しています。 こうした日本的ナルシズムを、私は、「共依存的ナルシズム」と呼んでいます。

「共依存的ナルシズム」は、欧米型の「傲慢なナルシズム」と違い、外からはわかりにくいと言えるでしょう。なにしろ、彼らには、自分たちの要求を通していく際に、常に正当そうな理由が存在し、彼らの要求を拒絶する側は、悪人に見えてしまうことすらあります。彼らの理論は、「私がこんなにみんなのこと(あるいは、組織のこと)を考えているのに、私の意見を採用してくれないなんて、ひどい!」につきます。彼らは、この理論をもとに、実は利己的な自らの意思を隠蔽し、表面的な利他性を強調することによって自説を正当化し、周りをコントロールしていきます。

いずれのタイプのナルシズムにせよ、こうした人たちが、組織のリーダーや幹部になると、その組織は、暴走し、そしてやがて崩壊します。

傲慢なナルシズムは、ワンマン社長的な人たちに多く見られます。また、共依存的なナルシズムの人たちは、カリスマ性を持つことは少なく、いきなりトップにはなりませんが、うまく立ち回って組織のNo.2あたりになることは、しばしば見受けられることです。また、幹部が共依存的なナルシストで占められてしまえば、No.1になることさえあります。

傲慢なナルシズムのワンマン社長は、自分が最高でありだれよりも優れているという感覚を持つと言う自己肥大を起こしていますから、他人の意見には耳を貸さず、そして、自らの利益のために、社員たちを酷使していきます。離職率の多いベンチャー企業なんかには、こうしたタイプの社長が多いと思われます。

一方、共依存的なナルシズムの人たちは、上の人たちには調子の良いことを言いますから、割ととんとんと出世するケースが少なくありません。彼らは、基本的にイエスマンで、上司の指示に反対意見を言うことはありません。また、自分の地位に固執しますから、単なるイエスマンだけではなく、上司の指示にプラスアルファの要求を部下に命ずることも少なくありません。彼らにとっては、上に認められることのみが究極の目的であって、少しでも上司からの覚えをめでたくするために、プラスアルファを提案するわけです。彼らには、傲慢なナルシストと同様、共感の気持ちが希薄ですから、部下がいかに苦労しようが知ったことではないのです。

共依存的なナルシストは、会社に対し献身的で前向きに見えます。例えば、社長が「売り上げ目標10億」と言ったら、「いえ、15億までいってみせます」なんてことを言ってしまいますから、やる気まんまんに見えてしまうわけです。

そうした共依存的なナルシストの方針に反対意見を言おうものなら大変です。

「みんなが、一生懸命やろうとしているのに、君は水を差すのか?」、「君は、会社が存続しなくなってもよいと言うのか?」などと責められてしまいます。そんなとき、共依存的なナルシストたちは、孤高のヒーローを演じます。

最悪の組み合わせは、傲慢なナルシストのワンマン社長と、共依存的なナルシストのNo.2の組み合わせです。

社長は、無茶な要求を繰り返し、No.2は、その要求を肥大化させ、そうしてできた妄想的な方針から、強固なグループ規範を作りだし、その結果、現実的な考えを持った社員は、ダメ社員のレッテルを貼られます。

この傾向が、ある程度進むと、社員が我も我もと過激な非現実的な提案を始めることになります。社員が、自らの意思を捨て、妄想的なグループ規範に飲み込まれていくわけです。

社長が、「年間売り上げ10億をめざそう」と言ったら、すかさずN0.2が「いえ、社長!100億をめざしますっ!」と宣言し、社員が、「ウォーッ!」と盛り上がり、社長が、「よくぞ言った」とNo.2を褒めあげ、その結果、No.2の妄想的提案が絶対的目標になるという状況になっていきます。

しかし、それは、業績が良い間、あるいは、社長の思いつきが当たっている間はイケイケムードで、盛り上がるのでしょうが、業績が悪化しだしたら、大変です。

まず起こるのが、業績悪化の犯人探しです。たいていは、会社の妄想的な方針に異を唱えた現実的な感覚を持った社員がターゲットになり、集中攻撃を受けることになります。実は、集中攻撃を受けた人たちこそが、会社の業績を好転させるキーパーソンなのですが、傲慢なナルシストのワンマン社長と、共依存的なナルシストのNo.2の組み合わせの会社では、彼らは、企業内いじめやリストラの対象となります。

リストラが決行され、その結果、一時的に業績は回復するかもしれません。妄想的な方針は、なんの抵抗もなく遂行され、人件費が削減された分、経常利益は上がります。しかし、それは、あくまで一時的なものです。業績は、再び悪化していきます。

この時点が、会社の再生の最後のチャンスなのですが、多くの場合、会社は再生には向かわず、崩壊に向かっていきます。なぜなら、再生のキーパーソンは、ほとんど残っていないからです。

キーパーソンの残っていない、しかも、傲慢なナルシストのワンマン社長と、共依存的なナルシストのNo.2という最悪の組み合わせにおいては、無謀な勝負に出たり、不法行為に走ったり・・、そうなると、もうおしまいです。

だめなときの一発逆転は、ほとんどあり得ないのですが、傲慢なナルシストのワンマン社長と、共依存的なナルシストのNo.2という最悪の組み合わせの組織においては、その奇跡にしがみつき、結局は傷口を広げ、やがて組織は崩壊します。

これが、こうした組織の末路です。

そして、実は、この組織崩壊に最も大きく影響しているのは、傲慢なナルシストのワンマン社長ではなく、共依存的なナルシストのNo.2なのです。傲慢なナルシストの社長は、それなりに企業家としての才能がありカリスマ性もあるのでしょうが、そうした人たちは、ごく一握りの人たちです。傲慢なナルシズムはたくさんいるかもしれませんが、トップに立つのは奇跡的なことです。たいていは、その前につぶされてしまいます。

一方、共依存的なナルシストのNo.2には、それほどの才能を必要としません。上に対して、いいこちゃんのイエスマンに徹すれば、トントンと出世してしまいます。彼らは、組織の中に必ずといってよいほどいます。

次回は、こうした共依存的なナルシストのNo.2の傾向についてお伝えしましょう。

(第12回おわり)

向後善之

日本トランスパーソナル学会 事務局長

ハートコンシェルジュ カウンセラー